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第8話 昼食とUFOキャッチャー

「なかなか……見応えはあったわね。続編も制作決定しているらしいから、その時はまた一緒に観に行きましょうね。怖かったら、私の手を握ってもいいんだからね」

「……まあ、その時はよろしくお願いします」


 映画館を出ると、凛は青ざめた顔で映画の感想を述べた。


(よっぽど怖かったんだなぁ)


 強がってはいるが、あまりそこを掘り下げて突っ込むのは凛の自尊心に傷を付けてしまうかもしれないので、軽く聞き流した。

 凛は時雨と腕を組んで歩き出すと、人混みの多い大通りを抜けて複合商業施設が入っているビルへとやってきた。


「ここの最上階のテラスでフレンチの予約をしているのよ。さあ、いきましょう」

「予約って……それに最上階でフレンチって、私そんなにお金を持ち合わせていませんよ」

「私の奢りよ。デートは私が誘ったんだし、それに最上階から見渡す景色を時雨と一緒に眺めたかったからね」


 凛は時雨と肩を寄せ合って最上階に繋がるシースルーエレベーターに乗り込むと、町の景色が広がっていく様子に心躍らされる。

 前世で高層ビルのような施設がある筈もなく、山でも登らない限り高所から下界を見渡す事は考えられなかった。


「時雨は高い場所とか平気そうでよかったわ」

「ええ、大丈夫ですよ。むしろ好きです」

「そう……それなら、また今度の機会に遊園地のジェットコースターでも乗りましょうか」

「本当ですか!? それでしたら、これに是非乗りましょう」


 時雨はスマホを取り出すと、全長二千m、最高速度百十km、最大落下角度五十度と記載された画面を凛に提示する。

 今までにない時雨の勢いに、思わず凛は後退ってしまう。


「ええ……いいわよ。今度は私が時雨の乗りたい物に付き合ってあげるわ」

「わぁ、楽しみですよ!? 先輩の都合がいい日に合わせますので、よろしくお願いします」


 時雨は目を輝かせて凛に礼を言うと、シースルーエレベーターは最上階に到着した。

 予約した店は時雨の想像通りで如何にも高級感に溢れている。

 凛は躊躇なく店内に入ると、時雨も後に続いた。

 ウェイターが時雨達に気付くと、接客に応じ始める。


「いらっしゃいませ」

「予約した桐山です」

「お待ちしておりました。席へご案内致します」 


 案内されたのはガラス張りのテラスで町を一望できる特等席であった。

 二人は向かい合って席に座ると、時雨は落ち着かない様子で凛に訊ねた。


「先輩、こんな高そうな店で食事して、本当に大丈夫なんですか?」

「心配しないの。ここの和牛ハンバーグは絶品で美味しいわよ」


 凛はメニュー表を時雨に見せると、おすすめの料理を紹介していく。

 メニューより値段に目が行ってしまうと、時雨は凛と同じ物を注文する事にした。

 しばらくすると、料理が運ばれてテラスに映し出されている景色を楽しみながら、グラスに注がれたグレープジュースで乾杯する。


「本当はワインでも飲みたいところだけどね」

「まあ、それは仕方ないですね」


 前世は気兼ねなく飲めたワインも、今では未成年の女子高生である身分の二人は気分だけでも味わおうとグレープジュースを頼んでいた。

 胃袋も満たされて凛は会計を済ませると、時雨は昼食のお礼をしようと階下にある娯楽施設に二人は足を運んだ。


「これでいいか。先輩、ちょっと待ってて下さい」


 ゲームセンターのUFOキャッチャーがある台で、時雨は足を止めると、凛は隣で時雨の様子を窺う。

 台にお金を入れて、流行りのボカロ人形を慣れた手つきでアームを操作して器用に掴んでみせると、アームはボカロ人形を持ち上げて、一回で取る事ができた。

 時雨はボカロ人形を凛に差し出すと、感謝の言葉を口にする。


「凛先輩、先程はありがとうございました。さっきの昼食代のお礼と言うには安すぎますが、これを受け取って下さい」

「これを私に……嬉しい!? 時雨が私のために取ってくれたんだから、一生大切にするよ」

「そんな一生だなんて大げさな」


 凛はボカロ人形を嬉しそうに抱き締めると、頑張った甲斐がある。

 凛も台の前に立つと、挑戦しようと試みる。


「私もやってみていいかな?」

「ええ、私が横でアドバイスを送りますので、やってみましょう」


 二人は色々な台を回りながら夢中になってUFOキャッチャーで遊ぶと、楽しいひと時を過ごすことができた。

 陽が暮れる時間になると、一旦帰って寝間着や勉強道具の荷物を持って香の家に行かないといけない。

 二人は駅前に着くと、今日の事を振り返りながら時雨は微笑んで礼を述べた。


「凛先輩、今日はとても楽しかったです」

「私もよ。また休みの機会にでも今度は時雨が乗りたがっていたジェットコースターを乗りに行きましょうか」

「ええ、約束忘れないで下さいよ」

「ふふっ……じゃあ、またね」


 凛は時雨に別れの挨拶をすると、顔を近付けて時雨の頬にキスをする。

 これには言葉を失って、しばし呆然とする時雨は我に返ると頬を赤く染めてしまった。

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