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第75話 ボーリング

 胃袋が満腹になると、エレベーターで上階の遊戯場を見て回っていた。

 食後の運動も兼ねて、何か三人で楽しめる物を探していると、時雨は自然と口許に手が動いてしまう。


「あれは女の私でもドキドキしたから、時雨には刺激が強すぎたね」


 加奈が小声で時雨に言うと、心中を察してくれたようだ。


「おかげで、あまり食べた気がしないけどね」

「空腹と愛情を満たしてくれたんだから、文句を言ったら罰が当たるよ」


 それも一理あるが、愛情に関してはもう少しソフトな感じでお願いしたいところだ。


「私も時雨から愛情を注いでくれたらなぁ」

「また私をからかって……」


 時雨はやれやれと言わんばかりに肩を落とすと、前を歩いていた香が面白そうな物を発見した。


「あれをやろうよ」


 香が指差したのはボーリング場であった。

 三人でやるには盛り上がるだろうし、食後の運動には丁度良いだろう。


「受付を済ませて来るから、ちょっと待ってね」


 時雨が受付の手続きをすると、香はトイレに席を外す。

 少し離れた休憩所で加奈は腰を下ろすと、時雨に退屈そうな視線を向ける。


「鈍感な騎士様だな……」


 加奈は誰にも聞こえないように、不満の声が漏れた。

 

 手続きを済ませると、三人はシューズに履き替えて、ハウスボールを選んだ。

 ポーリングの経験は三人共、下校途中の寄り道等でプレイしたりしていた。

 時雨はハウスボールを片手にレーンの奥にあるピンに照準を合わせると、昔の事を振り返る。

 時雨が前世の士官学校では武器の扱い方として、柄と棘付き鉄球の間を鎖で繋いだモーニングスターを訓練中に使用した事があった。実戦で使う機会は殆どなかったが、あの訓練があったおかげで、ボールのコントロールは上手くコツを掴めたような気がした。

 時雨の第一投は見事にストライクを飾る事ができた。

 続いて、香はピンを倒す事なくミスで終えると、加奈が自信満々になって提案を持ち掛ける。


「時雨、賭けをしない? 勝負に勝ったら、一つだけ何でも言う事を聞くって言うのはどうかしら」


 加奈のボールは勢いよく真っ直ぐレーンを突っ切ると、ストライクを叩き出した。

 正直、軽い運動のつもりだったので勝敗はあまり気にしていなかったが、加奈の挑戦的な態度に香は即座に応援する立場へ変えた。


「時雨ちゃん、加奈に負けないで頑張って」


 黄色い声援が飛び交うと、二人の中で賭けが成立している。


「……お手柔らかに頼むよ」

「私が勝ったら、時雨は私にキスをよろしくね。あっ、ちゃんとお互いの唇でやるんだよ」

「えっ!?」


 押しに弱い性格の時雨は加奈の賭けに乗ると、思わず声が裏返ってしまった。

 負けられない戦いが火蓋を切って落とされた。

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