第73話 お好み焼き屋
宿題を終わらせると、三人は近所の複合商業施設で昼食にしようとしていた。
時雨と香は私服に着替えて、加奈は制服を着用する。
「私服は持って来なかったの?」
「荷物になってかさばるし、ゴールデンウィーク中には制服をクリーニングする予定だから、制服のままでいいかなって思ったの」
効率を求める加奈らしいなと時雨は思った。
そういえば、そろそろゴールデンウィークだ。
凛と遊園地へ行く約束をしているが、日にちと時間はまだ決めていない。
彼女の事だから、遊園地の下見や前売券を用意して準備を整えているのだろうが、後ほど時間が空いている時に連絡を取ってみよう。
加奈は香に振り向くと、先程の似顔絵の件で気付いた事を指摘する。
「そういえば、中学の時みたいに『ちゃん』付けで呼び合ってるのね」
「二人っきりの時はそうしようって決めたの。加奈は理解があるから気にしないでいたけど、他のクラスメイトの前だと……恥ずかしいから」
「なるほど、中学のイメージを払拭したからか。別にいいんじゃないの? クラスの皆は時雨と香の関係はもう公認状態だし、むしろ『ちゃん』付けしていた方が自然な感じだと思うわよ」
毎日、手を繋いで登下校するぐらい仲が良いのだから問題ないと加奈が後押しすると、「そうかな」と香は照れた表情で満更でもない感じだ。
「私は今の香も好きだけど、中学の頃の香は自然体で子供っぽいところがあって好きだったけどね」
「ふふん、いつまでも子供じゃないって事だよ」
鼻息を荒くしてドヤ顔になる香を見ていると、子供っぽいところは抜け切れていないなと時雨は思う。
「時雨ちゃんもそう思うでしょう?」
「うーん、どうだろう。内緒にしておこうかな」
「えー、意地悪しないで教えてよぉ」
香は時雨に同意を求めると、時雨は曖昧な返事を返した。
時雨としては、素直な性格のままでいて欲しいと願っている。
それが彼女らしさを表現しているし、長所である。
「二人共、本当に仲がよろしいようで。お昼はあそこのお好み焼き屋でどうかしら?」
加奈が二人の間に入ると、指で示した店は赤提灯がぶら下がっているお好み焼き屋だった。
三人でお好み焼きを食べるのは初めてで、悪くない選択だ。
時雨と香は加奈の意見に賛同すると、昼食はお好み焼きに決定した。
「私、お好み焼きって作るのは初めてなのよね。時雨と香を参考にさせてもらうわ」
「えっ? 私も初めてだよ」
加奈は胸を躍らせて店を潜り、徐にお好み焼きを作るのは初めてだと明かすと、香が驚いた様子だ。
二人は顔を見合わせると、頼みの綱である時雨に期待が圧し掛かる。
「一応、作れるよ」
家族がいない時はフライパンを用意して簡易的なお好み焼きを作ったりしていたので、基本的な工程は問題ないと思う。
仮に分からなくても、店側で焼き方の手順が記載された貼り紙や従業員が説明をしてくれるだろう。
席に案内されると、三人はメニュー表を開いて各々注文を済ませた。




