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第72話 二つの似顔絵

 午前中は学校の宿題を終わらせるために、三人は卓を囲んでいた。

 時雨は以前出された美術の課題を提出するために、香の似顔絵を再度挑戦していた。


「時雨画伯、調子はどうだね?」

「まだ描き始めたばかりだよ。恥ずかしいから、絵が完成するまで覗かないでくれよ」


 加奈はキャンパスを覗き込もうとすると、時雨は慌てて身体の姿勢を丸くしてキャンパスを隠した。

 自分では普通に描いているつもりであったのだが、周囲の反応はドン引きと共に不名誉な画伯の称号を時雨に与えた。


「あん、時雨の意地悪〜。どうせなら、似顔絵じゃなくてヌードに挑戦してみたらどう?」


 仮にそんなのを提出したら、先生に叱られるのは目に見えている。

 それに、ヌードなんて香がやる筈も――。


「時雨ちゃんやりたいって言うなら一肌脱ぐよ」

「いや、脱がなくていいからね」


 そうでもなかった。

 時雨は上着を脱ごうとする香を冷静に制止すると、その隣で加奈が可笑しそうに笑っている。


「ほら、二人は宿題を続けて」


 時雨が溜息をついて仕切り直すと、香とキャンパスを交互に視線を移しながら描き込んでいく。

 しばらく沈黙が続いていると、香が髪を掻き分けて宿題に悪戦苦闘している姿になる。


「分からない問題があるなら、私が見てあげるよ」

「ありがとう。私は大丈夫だから、時雨ちゃんはそのまま似顔絵に集中していいよ」


 香は姿勢を正して片手に辞書を持って開くと、自力で問題を解いていく。時雨に気を遣ってくれたのだろうが、柔らかい表情を維持して自然体を保とうとしてくれている。

 高校入学当時はギャル要素が高い香の風貌から、援助交際やパパ活してそうと噂が立った。

 幼馴染である時雨は香がそんな事をしないのは重々承知していたが、学校生活をしていく間に時雨と香が手を繋いで登下校、二人っきりでいる時間が多い事を知られると妙な噂はいつの間にか消えていた。

 そこまでは良かったのだが、時雨と香が特別な関係だと新たな噂が浮上してしまったのは致し方ないと半分諦めている。


「よし、できた」


 加奈が教科書を閉じると、どうやら宿題は終わったようだ。


「意外と早く終わったね」

「時雨君。人間、やる気を出せば何でもできるものだよ」

「そのやる気を普段の勉強に活かして欲しいけどね」


 元ダークエルフだったけどねと色々と突っ込みどころはあるが、敢えて深くは追及しなかった。


「まずはこちらをご覧あれ」


 加奈はノートのページを捲ると、そこに映っていたのは前世の姿をした時雨と現在の姿をした時雨の似顔絵だった。

 大人しく宿題を解いていたのかと思えば、まさか加奈も似顔絵を描いていたとは想像もしていなかった。


「加奈、宿題は?」

「一応できてるよ。問題解きながら、似顔絵を頑張ってみました」


 努力の方向音痴かなと呆れる時雨だが、加奈の描いた似顔絵は上手に仕上がっている。

 香も上手に仕上げていたが、強いて問題があるとすれば、ノートにある似顔絵は少々美化されている印象がある。


「私はこんなに美人じゃないよ」

「またまた、そんなご謙遜を!? 香はこの似顔絵をどう思う?」


 加奈が香に話を振ると、香はノートをじっと見つめて強烈な一言が飛び込んだ。


「似顔絵より本物の時雨ちゃんが可愛いよ。野郎の似顔絵は興味なし」


 どちらも自分なんだけどねと複雑な思いで香の感想を聞いていた時雨であった。

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