第71話 占いの記憶
「貴方の人生はある時期をきっかけに大きな変化を遂げるでしょう」
城下の優雅な街並みから裏路地に入った怪しげな店で、顔をフードで被っている占い師の女性が占いの結果を告げる。
「大きな変化ですか」
時雨は占いの結果をどのように捉えたらいいか困った様子で頭を掻く。
一緒に占いを受けに来た凛は時雨の隣で満足そうな顔をする。
「そんなの結婚か出世のどちらかよ。もしかしたら、両方同時に訪れるかもしれない。よかったじゃない」
凛は占いの結果を前向きに捉えると、時雨の両手を握って喜びを分かち合おうとする。
時雨と凛は城下で噂になっている占い師を訪ねて、お互い恋人と言う設定に扮していた。
民の関心が高いものに触れるのは王族の務めとして当然だと主張する凛だが、好奇心から占いを体験してみたいだけだろう。
「あなたも同じく大きな変化を迎えるでしょう」
占い師は凛にも淡々と占いの結果を告げる。
「あら、私もそうなのね。じゃあ……ロイドと一緒に幸せになれたらいいね」
凛が時雨に笑顔を向けると、傍で何かが鳴り響いた。
時雨は音がする方向に手を伸ばすと、スマホの目覚ましアラームを切って夢から現実へと目覚めた。
(懐かしい夢だったな)
時雨は欠伸を漏らして頭を掻くと、アラームは平日に合わせていたので、香と加奈はまだぐっすりと眠っている。
二人を起こさないように洗面所で顔を洗うと、タオルで顔を拭きながら夢の事を思い返していた。
たしかに、ある時期をきっかけに時雨の人生は大きな変化を遂げたと言えるだろう。
柔らかい腰つきに胸も成長期に合わせて大きくなっている。
男性から女性に転生したのは占いの結果を示していたのだろうか。
今となっては確めようがないが、もし転生を見通しての事なら、あの占い師は神様だったのかもしれないなと時雨は思う。
「時雨、おはよう」
背後から加奈の声がすると、加奈は時雨の胸を揉んで朝の挨拶をする。
「ひゃあ!? 急に変なところを触らないでよ」
時雨は咄嗟にタオルを放り投げると、恥ずかしそうに自分の胸を押さえる。
「時雨の初心な反応が可愛いなぁ。もう一回触ってもいい?」
「嫌だよ。朝っぱらから変な声を出させないでよ……」
時雨は床に落としたタオルを拾い上げると、洗濯機の中に放り込んで呆れてしまう。
それと同時にいつもの加奈だなと安堵すると、遅れて香も洗面所に顔を出して来た。
「二人共、おはよう」
眠そうな眼を擦って挨拶を済ませると、香も洗面所で顔を洗う。
先程と同じタイミングで加奈は香にも胸を揉むと、意外な返答が返って来た。
「時雨ちゃんならいいけど、加奈はもういい加減にしないとその内セクハラで訴える」
「香は女の子が射程範囲なら、私もOKでしょう?」
「加奈は何と言うか……発想がオッサンみたいで嫌だ。前世はオッサンだったんじゃないの?」
これには流石の加奈も参ってしまったようで何も言い返せなかった。
前世はオッサンじゃないが、ダークエルフの少女だったと言える筈もなかった。




