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第70話 就寝前に

 二人は部屋に戻ると、それぞれの布団に潜った。

 時雨はしばらく天井を見上げて思考を巡らせていると、加奈の事で頭が一杯だった。

 気掛かりな事は一つあるのだが、加奈と前世で因縁があるなら、どうして凛と初めて学校の廊下で接触した時のように前世の記憶が蘇らなかったのだろうか。

 加奈とは中学からの付き合いで、数え切れないぐらい接触していた。

 それと同様に、凛と紅葉も同級生で剣道部に所属していたのに、お互い前世の記憶を呼び起こす事はなかった。

 何か記憶を呼び起こす引き金と条件はあるのだろうが、見当もつかない。

 そもそも、転生自体が常軌を逸している現象なのだから、解明するのは難しいだろう。

 時雨は目を閉じると、自分の布団に潜った筈の加奈が時雨の布団に入って来た。


「寝相が悪いなぁ」


 時雨は一旦起き上がって布団を剥ぐと、両手で加奈を持ち上げて元の布団に戻そうとする。

 お互いに華奢な身体なので、お姫様抱っこの体勢で加奈を持ち上げると一瞬ふらついてしまったが、すぐ隣の布団に加奈を寝かして布団を被せようとした時だった。


「ねぇ、一緒の布団で寝ない?」


 時雨の耳元で加奈が囁くと、どうやら起きていたようだ。


「加奈、起きてたのか。一緒の布団って……」


 時雨は頬を赤く染めて言葉を詰まらせると、加奈は意地悪な笑みを浮かべる。


「夜風で長く当たっていたから、身体が冷えちゃった。お互い人肌で温め合いましょうよ」


 本当は軽く夜風に当たって寝るつもりであったが、加奈の話を聞いている内に身体は冷えきってしまっていた。

 加奈の提案に時雨は戸惑っていると、加奈は強引に時雨を布団に誘い込む。


「私のせいで、時雨も身体が冷えちゃっているからね」

「別に……いいよ。私は加奈の前世を責めるつもりもないし、誤魔化そうと思えば、胸の内に仕舞って置く事もできた。真実を伝えてくれた加奈の勇気は凄いと思う」


 時雨は静かに礼を述べると、無理して機嫌を窺わなくてもいいよと添えて布団から出ようとする。

 加奈とは前世の件で親友関係が崩れるような事はないし、今は元気で明るい女子高生なのだからそれでいいと時雨は思っている。


「じゃあ、お休み」

「……もう、真面目だなぁ。それが時雨の良いところだけど、少し羽目を外してもいいのにね」


 物足りなさを強調する加奈の言葉を聞いて、時雨は自分の布団に潜ると、目を瞑って深い眠りにつこうとする。

 二人のやり取りを知らない香はベッドで寝言を呟く。


「時雨ちゃん、その肉は煮えてるから食べなよ」


 察するに、夕食のすき焼きを時雨と夢の続きで食べているのだろうか。

 加奈は可笑しくなって小さく笑う。


「香の緩い感じと時雨の真面目さって、実は絶妙にかみ合っている気がする」

「それって褒めてるの?」

「ふふっ、お休み」


 時雨の問いには答えず、加奈は布団に潜ると、しばらくして寝息を立てる。


(何だかなぁ……)


 上手くはぐらかされてしまったが、香の寝言を聞いている内に時雨も自然と笑みがこぼれた。

 三人の関係性はこのまま変わらない方がいいかもしれないなと思いながら、時雨も深い眠りについた。

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