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第7話 映画館のデート

 翌日、時雨は待ち合わせの映画館へ向かっていた。

 服装は色々と悩んだ結果、黒のジャケットに細身のパンツスタイルでネクタイを締めて、大人の女性を演出させてみた。

 高身長で女生徒達から憧れる凛と一緒に並ぶなら、変な格好はできないと重圧(プレッシャー)があったからだ。

 前世が男性だった時雨にとって、初めて小学生の頃にスカートを履かされた事は今でも鮮明に覚えている。シェラートや貴族の婦人等が好んで履いていたが、まさか自分が着用する機会が訪れるとは夢にも思わなかった。


(スカートよりこの格好が楽だな)


 今でこそ学校の制服でスカートは慣れたが、やはり好んで履きたいとは思わない。

 電車を乗り継いで、人混みの中を歩いた先に約束した映画館が見えてきた。

 スマホで時間を確認すると、約束の十五分前に到着する事ができた。

 何組かのカップルが映画館の中に入っていく様子を目で追うと、急に恥ずかしさが込み上げてきた。


「だーれだ」


 背後から時雨の目を覆い隠すと、女性の掛け声がする。

 これでも元騎士であった実績もあるので、気配の察知には自信があったのだが、鏑木時雨となった今では衰えてしまっている。

 時雨は照れながら背後にいる女性の名前を告げて挨拶を交わす。


「凛先輩、おはようございます」

「ふふっ、正解よ。約束の時間より早かったわね」


 凛は覆っていた両手を下げると、時雨の隣に並んでみせた。

 チェックのブラウスにレースのホワイトスカートを着こなしている凛の姿を直視すると、品行方正なお嬢様に相応しい。


「時雨の制服姿も良かったけど、私服姿も似合っているわね」

「あ……ありがとうございます。先輩も清楚感があって可愛いです」


 互いに私服を褒めると、凛の大人びた雰囲気に圧倒されてしまう。

 凛は時雨の手を繋ぐと、映画館の中へ入って行く。


「この映画、前から気になっていたのよね。でも、一緒に観てくれる人がいなかったから、時雨がいてくれて助かったわ」


 凛が指定したのはホラー映画で、テレビ等で話題になっている作品だった。

 たしかに女生徒達の憧れの的である凛にホラー映画は似合わないような気がする。

 凛と長年に渡って付き添っていた時雨なら、気兼ねなく誘えたのもうなずける。

 チケットを買い求めると、二人はポップコーンと飲み物を購入して指定された座席に腰を下ろす。

 凛はスクリーンに目を向けながら、声に緊張感を湧かせて時雨に話しかけた。


「怖いって噂は耳にするから、ドキドキするわね」

「ええ、私も少し緊張しています」


 ホラー映画は苦手ではないが、隣に座っている凛が上映中に気絶や絶叫したりしないか心配であった。

 上映が始まると、周囲は暗くなって静まり返った。

 物語の冒頭で平和な町並みが映し出されると、徐々に不穏な状態が町全体を襲う。

 主人公達は町の住人がこの世の者とは思えない化け物に変異すると、主人公達に襲い掛かる。

 化け物達の追跡を回避しながら、町から脱出しようと主人公達が知恵を絞って模索を試みると言った内容で、噂通りの評判であった。


(この手の化け物は前世で戦ったなぁ)


 時雨はそんな感想を抱きながらスクリーンを眺めていると、隣にいる凛は時雨に手を伸ばして震えていた。

 それに応えるようにして、上映が終わるまで凛の手をしっかり握って彼女に安心感を与えた。

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