第69話 ダークエルフの少女②
「因果応報って言葉があるけど、ダークエルフの少女の所業を考えたらロクな死に方をしないのは必然的だった。でもね……このダークエルフの少女にはまだ話の続きがあるんだ」
しばらくして、深い闇の奥底から意識が復活するような感覚を覚えると、ダークエルフの少女は小さな赤ん坊に転生を果たした。
ダークエルフの少女は人間の女の子として両親から惜しみない愛情を注がれて育てられると、前世で満たされなかった何かを獲得できたような気がしていた。
小学校を卒業して中学生になると、ダークエルフの少女は二人の女の子と仲良くなった。
一人は地味な眼鏡とおさげ髪をした大人しい女の子と正義感の強いからかい甲斐がある女の子だった。
「二人と過ごした時間は自分がダークエルフの少女だった過去を忘れさせるぐらい楽しい思い出が積み重なっていった。それは高校生になってからも変わらないと確信していた」
月日は流れて高校生になったダークエルフの少女は偶然にも、からかい甲斐がある女の子と学校の憧れの的である先輩の衝撃的な話を聞いてしまった。
二人はダークエルフの少女が前世で御者に扮して始末した一国の姫と護衛の人間が転生した姿だったのだ。
「その事実を知ったダークエルフの少女は怖くなった。仲の良かった親友が復讐の相手だと知ったらどうなるかってね」
「加奈……」
加奈は両手の拳を強く握ると、彼女の懺悔する言葉に時雨は耐えられなかった。
「この期に及んで未練がましく生き延びようとして、親友面する卑怯者。神様はきっと罪を犯した者を罰するために転生させたのかもしれないね」
加奈はベランダの手すりに身を乗り出すと、自らの命と引き換えに過去を清算しようとする。
そんな事はさせまいと、時雨は慌てて引き止める。
「加奈の馬鹿! 私や凛先輩は加奈の死を望んでいないよ。たしかに前世は無念な死を遂げたけど、当時は政治的な立場から命を狙われる事は珍しくなかった。それにダークエルフの少女は敵に利用されただけだ」
「でも、手を下した事実は変わらないよ」
「仮に復讐したところで虚しさしか残らないよ。親友を死なせた後悔と後味の悪さが一生付き纏うに決まっている!」
時雨は強く加奈を抱き締めると、それが本心であると納得させる。
ベランダの夜風が二人を包むと、加奈の手は少し震えている。
「……時雨は筋金入りのお人好しだね。許しを得るために、私が時雨の性格を利用して嘘を付いているかもしれないって考えはないの? 馬鹿な騎士様を欺くために、それらしい話をでっち上げているかもしれないよ」
「それはないよ。私の知っている加奈は人を傷つけるような嘘は付かないよ」
時雨は震えた加奈の手もしっかり握ると、笑って答えてみせた。
「からかい甲斐がある女の子のくせに、カッコいい台詞を吐いて……香が夢中になるのも分かるような気がする」
加奈も時雨の笑顔に釣られて笑い出すと、「ありがとうね」と一言呟いた。




