第67話 ダークエルフについて
雑談を交えながら学校の宿題を終えると、時計の針は十一時を指していた。
欠伸が漏れると、香はベッドに潜って一早く寝息を立てる。
「ふふっ、可愛らしい寝顔ね。私達もそろそろ寝ましょうか」
加奈は香のはだけた布団を直して寝顔を覗き込むと、照明を消して布団に潜ろうとした。
「あのさ……少し夜風に当たらない?」
時雨は遠慮がちにベランダの前に立つと、月明かりが映える。
「あら、夜景をバックにして愛の告白でもするのかしら?」
「ち、違うよ。嫌なら別にいいけど……」
「冗談。気分転換なら付き合ってあげるよ」
加奈は可笑しそうに笑うと、二人は香を起こさないように足音を立てずにベランダへ移る。
夜空には月以外に輝いている星は見えないが、代わりに大都会の照明がぽつぽつと闇夜を照らしている。
「気持ちいいね。こんな風に加奈と話す機会はなかったから新鮮だよ」
「中学からの付き合いだけど、言われてみれば初めてかもね」
毎日学校で会っているが、家は近所でないので加奈と夜を過ごすのは特別な感じがする。
(それとなく訊ねてみるか)
昨日の夜、加奈が最後に質問した内容を切り出そうとする。
「昨日、崖から敵国の者に突き落とされたって話があったけどさ」
「うん」
「陥れた相手も憎いけど、一番は対処できなかった自分の未熟さに腹が立っているよ。たらればだけど、あの時にこうしていればよかったと思う事はあるし、今は後悔しないように普段の行動を心掛けている」
前世の記憶があるからこそ、戒めとして教訓になっている。
それは時雨だけではなく、凛や紅葉も同様である。
耳を貸していた加奈は目を伏せると、時雨に賛辞の言葉と拍手を送る。
「なるほどね。君は心優しい立派な騎士だよ」
心なしか、少々声にいつもの元気が足りないように思える。
茶化されるものだと予想していたが、見当が外れてしまった。
加奈はしばらくして目を見開くと、突拍子もない事を訊ねてきた。
「時雨はダークエルフって種族を知っている?」
ダークエルフは前世の世界で存在した闇の眷属に位置する種族である。
一説では森に棲んでいたエルフが闇に魅入られて派生したと言われているが、詳しい生態については分かっていない。
この世界ではおとぎ話に登場するような架空の種族として認識されている。
「ダークって言葉があるだけに、あまり良い噂は聞かない種族だね」
ダークエルフは基本的に人間やエルフと距離を置いて独自の村社会を築いていたと記憶している。
一瞬、突風に近い風が舞うと、時雨は思わず身構えて目を閉じてしまう。
今の突風で目にゴミが入ってしまったようで、時雨は目を擦ってゆっくり目を開けると、目の前に映ったのは長耳のシルエットをした人物だった。
(えっ?)
もう一度、念入りに目を擦って確かめようとすると、長耳のシルエットをした人物は消えて寂しそうな表情で加奈が立っていた。
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