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第61話 前世③

 それから、凛は時雨が城下の警備を終える時間帯を見計らって城を抜け出すと、二人でいる時間が多くなった。


「シェラート姫、頻繁に城を空けるのはまずいですよ」

「ロイドは男なのに気が小さいのね。お城は私の顔色を窺う連中ばかりで退屈なのよ。城下なら、面白そうな話が転がっていそうだと思ったけど、私の勘は当たったようね。君のようなからかい甲斐がある騎士がいれば……ね」

「またそのようなお戯れを……」

「さあ、今日も君と一緒に城下の探索よ」


 凛は困惑する時雨の手を握って、二人は今日も城下の見回りを行う。

 これが城の人間に知れたら、大目玉を食らうのは時雨だ。

 気が気でなかったが、凛と秘かに過ごしたあの時間はかけがえのないものであった。


「今の桐山先輩とは全然イメージが違うね。優等生と言うより、どこにでもいる女子高生みたいなお転婆な感じがするよ」

「昔を知っていると、学校で初めて出会った時は信じられない気持ちだったよ」


 普段の学校生活では決して見えなかった側面を垣間見た加奈は可笑しくなって笑ってしまった。

 興味があると何でも知識として収めようとする姿勢は凛の良いところである。

 為政者としての才覚は持ち合わせていたので、人を惹き付ける力は今も健在だ。


(根本的な部分は変わらずだな)


 性格は丸くなった部分はあるが、転生後も脳内は前世の記憶を引き継いでいるので、もしかしたら脳内だけは前世で過ごした分も年齢を重ねているのかもしれない。

 そう考えると、現在の時雨や凛の身体は十代後半だが、脳内年齢は三十代後半。

 紅葉に至っては四十代後半から五十代に突入する段階まで迫っている事になる。


「そっか……じゃあ、二人の仲を引き裂いて崖から突き落とした敵国の人間は今も憎んでいる?」


 加奈は声のトーンを抑えて時雨に質問すると、妙な疑問が浮かび上がった。

 たしかに時雨と凛の関係性については先日の公園で白状したが、転生のきっかけとなった崖から突き落とされた話はしなかったと記憶している。


「あれ? 加奈に崖から突き落とされた話しはしていなかったような……」


 時雨の知らないところで、凛から話を聞いていたのかもしれないが、加奈の性格なら凛に今まで時雨が喋った前世の話を聞いていてもおかしくない。

 音声電話なので加奈の表情は窺えないが、一瞬マイクから「しまった」と声を拾った。

 加奈はわざとらしい咳払いを数回する。


「ゴホゴホ、ちょっと体調が芳しくないので明日に備えてもう寝るよ。今日は素敵な話を聞かせてくれてありがとうね」


 時雨にお礼を述べて音声電話を切ると、半ば強制的に切り上げた感じがする。


(何か変だな)


 加奈が最後に質問した内容を思い返して考えると、敵国の人間を憎んだところでどうしようもないのが現実だ。

 前世の世界に戻れるのなら、自分や凛を不幸にした連中に復讐を企てたかもしれないが、許せない気持ちと今の生活を大切にしたい気持ちが混在している。

 時雨の脳裏に、もやもやする気持ちが芽生えると、パソコンの電源を落としてベッドの中に潜って就寝する。

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