第6話 お姉ちゃんの推理
「お姉ちゃん! そこで何やってるの」
時雨が扉を開けると、姉の鏑木柚子が時雨の部屋に入って頭を撫でる。
「時雨も女らしい一面があるんだねぇ。好きな相手でもできたのかな? あんたは私と違って顔に出るタイプだからね。幼馴染の香ちゃんにデートでも誘われたってとこか」
「そ……そんなんじゃないよ!」
時雨は頑なに否定するが、柚子の分析は当たっている。
告白された相手は香ではなく、凛である点を除けば、まるで現場を覗いていたかのような推理だ。
さすが姉妹と言ったところなのだろうか、柚子の前で隠し事をするのは難しい。
「だって時雨はいつも香ちゃんと一緒じゃない? 香ちゃんも小さい頃、『時雨ちゃんと将来結婚するんだ!』って宣言してたしね」
「それは幼稚園に通ってた頃の話じゃない!」
「私はお似合いだと思うけどなぁ。香ちゃんが家にやってきて『時雨を下さい』とお願いされたら、私は二つ返事でOK出しちゃうけどね」
柚子は香の事を昔から気に入っているので、よく相談相手になったりしていた。
そういえば、大学で彼氏ではなくて彼女ができたと嬉しそうに報告していた事を思い出すと、本当に認めてしまいそうだ。
香とは幼馴染の友人であるが、香もそれは変わらない考えだと時雨は思っている。
「明日、学校の先輩と遊びに行く約束をしただけだよ。デートとかそんなのじゃないからね!」
「あら、学校の先輩に浮気かしら。香ちゃんと学校の先輩が時雨を取り合う姿が何となく想像できるわ。時雨は可愛いから、罪な女ね」
「用がないなら、さっさと部屋から出て行って!」
「ああ、用事を忘れてたよ。ご飯の仕度ができたから時雨を呼びに来たんだった」
「お姉ちゃん……次から私の部屋はノックして入って用件を言ってね」
「時雨、ノックしないといけない事を部屋でするのはいいけど、あまり激しい事をすると父さんや母さんが心配して部屋に入って来るから大概にね」
時雨の肩をポンポンと叩くと、何かを悟ったように柚子は部屋を出て行く。
壮大な勘違いをする柚子に対して、時雨は弁解するのも馬鹿らしくなってきたので、夕食が並べられている食卓へと足を運んだ。
夕食を済ませて、明日の予定を両親に伝えると快く承諾してくれた。
時雨は自室の机に座ってパソコンを起動させると、動画サイトで面白そうなものをチェックする。
前世の生活では考えられない品々がこの世界には溢れている。
特にスマホやパソコン等の電子機器は素晴らしい発明品だと感心してしまう。
魔力がなくても、遠い場所にいる相手と話せたり買い物が手軽にできたりするからだ。
(便利な世の中だな)
そう思いながら、新作のボカロ曲に目を通していくと、凛からスマホに連絡が入った。
『やっほー。明日のデートだけど、午前中にここで映画を観賞してランチを楽しもうと思うの。それでいいかな?』
デートに突っ込みを入れるのは野暮なのでスルーして、一緒に遊ぶには無難な選択だと思う。
特に問題ないと判断した時雨はスマホを駆使して凛に返事を返す。
『私は構いませんよ。待ち合わせは映画の上演時間に合わせて十時でよろしいですか?』
『ええ、明日の十時に映画館前で集合しましょう。明日の時雨とのデートは楽しみだわ』
すぐさま凛から返事が来ると、文面と合わせて本当にデートを心待ちにしているような気がした。
時雨も凛の純粋な気持ちを踏みにじるような事はしたくないので、デート云々は意識せずに喜びを共有したい。
(明日に備えて、今日はゆっくり休もう)
時雨はパソコンの電源を落とすと、いつもより早めのお風呂に入って布団に潜る事にした。