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第58話 思い出の記念

 会計を済ませて店を出ると、香のスマホに着信が入った。


「あ、お母さん」


 どうやら、香の母親からのようだ。

 そういえば、共働きだった両親は北海道の旅行に出かけていた事を思い出した。

 楽しそうに会話をする香を眺めていると、紅葉が時雨の横に立って先程の件について追求する。


「あの子、君の正体を知ってあんな事を言ったのか?」

「いえ……知らない筈です」


 時雨の前世が男だと承知の上で発言したのかと勘繰った紅葉だが、時雨は言葉を濁して否定する。

 香とは近所の幼馴染で、引っ込み思案な性格だった彼女と過ごした時間はかけがえのない宝だと伝える。


「なるほどな。君の言葉じゃないが、そういうところは昔から変わらんな」

「香は私にとって大切な友達で、妹みたいな存在なんです」

「じゃあ、その……時雨を純粋に女の子として好きなのか?」


 時雨は無言で頷くと、紅葉は二人の関係性について驚きを隠せないでいた。

 時雨をじっと見つめながら、紅葉が腕を組んで考え事をすると、疑問に思っていた事を一つ訊ねる。


「でも、君は元々男の子だったのだから問題はないのか。君自身、恋愛対象はどうなんだ?」

「私は……頭の中は前世のままなので、男性を恋愛対象として考えるのは抵抗があります。家庭を育むなら、本当は男性を恋愛対象にしないといけないのは承知しています」


 恥ずかしそうに時雨が答えると、保健室で加奈に本音を喋った時と同じ事を告げる。

 加奈は理解を示してくれたが、紅葉も理解してくれるとは限らない。


「私に人の恋愛を指図する資格はないよ。時雨の恋愛が成就する事を祈っているよ」

「先輩……」


 紅葉は時雨の肩を軽く叩くと、それ以上の事は何も言わなかった。

 香が電話を切ると、申し訳なさそうにして時雨と紅葉に手を合わせた。


「ごめん、お母さんとこれから会う約束をしちゃったの。本当は二人と一緒に帰りたかったけど……」

「気にしなくていいよ。香のお母さんは多忙だし、親子水入らずで楽しんできなよ」


 仕事の都合上、家を留守にする機会が多い母親と久々に会うのだから、時雨は快く承諾する。


「また明日ね」


 香は二人に手を振ると、駆け足で駅に向かって行った。

 二人っきりになった時雨と紅葉は香を見送ると、しばし無言が続いた。

 紅葉が一歩踏み出すと、屈託のない笑顔を向けて時雨にお礼の言葉を口にする。


「今日はありがとう。とても有意義な時間を過ごす事ができたよ」

「こちらこそ。先輩とこうして話していると、士官学校時代に戻ったような感覚で楽しかったです」

「ふふっ……実は私もだよ。スマホは検討してみるから、入手したらお互いの番号を交換していいか?」

「ええ、勿論ですよ」


 時雨も笑顔で答えると、スマホを取り出して思い出の記念に自撮りをした。

 そこに映し出されているのは写真に慣れていない表情が硬くなった紅葉の姿と緊張を和らげようと紅葉の手を繋いだ時雨の姿があった。

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