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第55話 紅葉の意外な一面

 学校と最寄りの駅の中間点に位置する商店街の一角に最近出店したパンケーキ屋があった。

 時雨達と同じ学校の女子生徒達や大学生の数組が列を作って並んでいる。

 青と赤の外観でお洒落な感じで目を引くと、紅葉はそわそわした様子だ。


「紅葉先輩、どうかしましたか?」


 時雨は紅葉にそっと声を掛けると、体調でも崩して気分でも悪いのかと心配になってしまう。


「実は恥ずかしい話なんだが、このような若い子が立ち寄るようなキラキラした場所はどうも苦手なんだ」


 紅葉が突然の告白をすると、たしかに前世で彼女と過ごした場所は男所帯の訓練所や食堂で同じ釜の飯を食った思い出しかない。

 でも、紅葉は元々貴族出身の筈だったので社交界等の華やかな場所は慣れているものだと認識していた。


「先輩、まるでおばさんみたいな物言いですよ」


 香は紅葉の話を冗談と受け止めると、愉快な先輩だなと笑いがこぼれる。


「私もあまり派手過ぎるのは苦手ですから、先輩の気持ちは分かりますよ」


 時雨はそれとなくフォローすると、紅葉の背中を押して三人は列に並んだ。

 三十過ぎの女騎士だった紅葉にとって、パンケーキ屋は初めて訪れる機会のようだ。

 香がスマホを取り出すと、店の一押しパンケーキと貼られた画像を見せてくれた。


「このふわふわしたパンケーキが女心をくすぐるのよね」


 色とりどりのフルーツが盛られて、ホイップクリームが合わさって食べ応えがありそうだ。

 海外でパティシエの修業を積んでいるようで、値段もお手頃でプロの味を堪能できると口コミの評判は高い。


「そうだ。先輩の連絡先を教えてもらってもいいですか?」


 香のスマホを眺めていて、時雨は紅葉と連絡先を交換していなかった事に気付いた。

 本当は昼休みの呼び出された時に訊ねるつもりであったが、訓練と紅葉の過去話で聞きそびれてしまった。

 時雨は鞄からスマホを取り出すと、香も一緒に連絡先を交換しようと紅葉と向き合う。


「……すまないが、私はそれを持ち合わせていないんだ」


 紅葉が首を横に振ると、時雨のスマホを指差して持っていない事を告げる。

 スマホの普及率は高校生で九割を超えていた筈だが、家庭の事情等で持ち合わせていないのかもしれない。


「そうでしたか……」

「両親から持ち歩けと言われているのだが、細々とした機械も苦手なんだ」


 残念そうに時雨が肩を落とすと、紅葉は溜息をついて理由を述べた。

 どうやら時雨達が考えているような複雑な事情はないようだ。


「スマホがあると便利ですよ。コミュニケーションや情報収集をしたい時には便利に活躍しますし、買い物の決済もこれ一つで解決できますからね」

「凛にも同じ事を言われたよ。試しに凛から借りて操作したりしたけど、どうも扱いがな」

「先輩のそういうところは昔から変わらないですね」


 紅葉は罰が悪そうに頭を掻くと、時雨が呆れた口調でなって自然と笑みがこぼれた。

 そんなやり取りをしている間に店員が時雨達を店内の席に案内すると、時雨と紅葉は楽しそうに並んで会話が弾む。

 その後ろで香は怪訝そうに二人の様子を窺うと、香の中で疑惑が浮上した。

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