第54話 凛と紅葉の温度差
「二人共、何やってるの?」
凛が校門前にいる時雨と紅葉に気が付くと、二人は顔を赤く染めて慌てて離れる。
紅葉は咳払いをして落ち着くと、冷静さを取り戻す。
「単なる世間話さ。何でもないよ」
「ふーん……その割には生徒達が校門前に集まって目立っていたけどね」
凛に指摘されると、周囲の女子生徒達は微笑ましい表情ですれ違っていく。
今になって思うと、大勢の前で大胆な事をしたなと恥ずかしさが込み上がってきた。
それは紅葉も同様で、普段のクールな表情が年相応の健気な女の子になっている。
遅れて、香も職員室で用事を済ませて時雨と合流すると、凛と紅葉に気付いて簡単に挨拶を交わす。
「時雨、お待たせ。あっ、桐山先輩と如月先輩もお疲れ様です」
「凛でいいわよ。この子も紅葉でいいから、私達も香ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「それは……構いませんが、有名な先輩方からそんな風に呼ばれると照れちゃいますね」
香は照れ臭そうにすると、時雨と腕を組んで傍に寄る。
前世で関係が繋がっていなかったら、おそらくこうして話す機会もなく学校の有名人として存在しているだけだっただろう。
「よろしければ、凛先輩と紅葉先輩も一緒に新しく開店したパンケーキ屋に行きませんか?」
時雨が二人をパンケーキ屋に誘うと、香は一瞬渋い顔になった。
時雨と二人っきりでパンケーキを食べられると期待していただけに、凛が気さくに振る舞ってくれているとはいえ上級生の二人も同席となると気を遣わないといけない。
「私は風紀委員の仕事があるし……と言うか寄り道せずに帰宅しなさい」
風紀委員として紅葉が呆れて正論を説く。
今時、寄り道しないで直帰する学生は珍しいだろう。
「まあまあ、風紀委員の仕事は私が引き継ぐから、ここは時雨のお誘いを受けて行ってらっしゃいな」
凛が紅葉をなだめると、紅葉の腕章を取り上げて風紀委員の仕事を引き受けるつもりだ。
「凛……」
「たまには女子高生らしい過ごし方も悪くないわよ」
紅葉が困った顔になると、凛は彼女の背中を軽く叩いて後押しする。
「そういう事だから、紅葉を連れてパンケーキ屋に連れて行ってあげてね」
校則を遵守していた紅葉を時雨と香に身を預ける。
凛は腕章を取り付けると、仕事モードをオンにして下校する女生徒達を笑顔で見送る。
「門限を守って、気を付けて帰るのよ」
ピリピリしていた紅葉の時と一変して、女子生徒達は軽く会釈して「はーい」と和やかな雰囲気で返答する。
文武両道、容姿端麗で女子生徒達の憧れの的である凛と比べて紅葉も条件は当てはまっている筈なのだが、性格面から近寄り難いのが勿体ない。
「心なしか生徒達が明るい感じのような……」
「気のせいですよ!? さあ、参りましょう」
時雨は凛に一礼すると、両手で紅葉と香の手を掴んで学校を後にした。




