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第53話 女騎士との決別

 帰宅する女子生徒達の風紀を取り締まるために、紅葉は今朝と同じく校門前に立つと時雨が労いの挨拶を交わす。


「紅葉先輩、お疲れ様です」

「……時雨か。君は前世が男の子だったから、その名前はどうも慣れないな」


 紅葉にとって、『ロイド君』と馴染み深い名前で呼び合っていただけに、転生後は性別が逆転してしまった時雨に戸惑いがあるのは仕方がない。


「時雨や凛とこうして再会できたのは何かの縁だと思うよ。二人とは一回り以上も年齢が離れていたのに、凛と同い年で時雨とは一つ上のお姉さんか」

「想像もしなかった世界観ですよね。でも私にとって、紅葉先輩は昔と変わらず心身ともに健全な人だと思っていますよ」


 今の状況に感慨深くなると、紅葉は可笑しくなって笑みがこぼれた。

 凛の時も同様だったのだが、教官と教え子の関係であった二人は、今では一個年が離れた先輩後輩の間柄なのだから不思議な感覚だ。

 時雨は姿勢を正して紅葉に頭を下げると、謝りの言葉を述べた。


「あの……先程は辛い過去を思い出させてすみませんでした」

「君が謝る必要はないよ。あんな話を聞かされて、私に失望したんじゃないかな?」


 理由はどうあれ、夫を殺害した事実は変わらない。

 時雨が紅葉と同じ立場だったら、紅葉のような行動に移っていたかもしれない。

 前世で犯した罪は当然ながら、この世界で裁かれる事はない。

 重い十字架を背負ったまま、目の前にいる彼女は苦しんでいる。

 午後の授業中に考えていた事を振り返ると、時雨の答えは紅葉を抱き締めた。


「こ……こら!? 年上の女をからかうのは感心しないよ」


 当然ながら、下校する女子生徒達の注目の的になった。

 その中には時雨と同じクラスメイトの女子生徒もいたので、「浮気の現場を目撃してしまった」と口を押えながら大袈裟にする子もいた。

 時雨は周囲を気にせず、紅葉の耳元に囁いてみせた。


「あなたはもう十分に悩んで苦しんだ。どうか幸せを掴むのを恐れずに、これからの人生は如月紅葉として相応しい人生を歩んで下さい」


 その言葉が時雨にしてやれる最善手だ。

 風紀委員に身を投じて女子生徒達を律したり、才能がある凛を一流の剣士として育てようとしたり、自身に厳しい戒律を設けているのは前世で犯した罪を無意識に償おうとしているように感じられた。

 一見すれば生徒思いで才能を引き出そうとする女子生徒であるが、前世がトラウマとなって自身が幸せに繋がるような事から逃げている女騎士だ。


「後輩に悟られる様では私もまだまだ未熟だな。悔しいが、反論する余地はないよ」

「リュール殿……」

「私は如月紅葉。リュールとはもう決別しないとな」


 紅葉は改めて名前を告げると、続けて小声で「ありがとう」と呟いた。

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