第5話 デートの考察
駅の改札口を通り抜けて、電車の座席に揺られながら、時雨はデートの事で頭がいっぱいだった。
前世が男性だったので、女生とデートするのは喜ばしい筈なのだが、どうにも気乗りはしなかった。
時雨にとって、主従関係から先輩後輩の間柄に変わっただけでも驚きなのに、付き合う事になってデートする段階まで突き進んでしまった。
(私をからかっていらっしゃるのかな)
それなら凛の気まぐれに付き合ってもいいが、もし違っていたら――。
電車が駅に着くと、重い荷物を背負った老婆が乗車して時雨の前に立ち止まった。
「どうぞ、私は次の駅で降りますので」
「お嬢さん、どうもありがとう」
時雨は老婆に席を譲ると、老婆は感謝の言葉を送る。
騎士として、困った者を決して見て見ぬふりをしないと誓っていたので、その行動理念は鏑木時雨に転生してからも変わってはいない。
次の駅で時雨は降りると、鞄の中でスマホが鳴っているのに気付いた。
凛が早速デートの日程を伝えにきたのかと思ったが、相手は香であった。
SNSを利用して時雨に連絡をしてきたようで、文面が届いていた。
『明日、私の家に泊まりに来ない? 中間試験も近くなって勉強とか色々と教えて欲しいところがあるからさ』
そういえば、中間試験がそろそろ近い時期に差し掛かっていた。
香は中学の頃から勉強が得意ではなかったので、テストが近くなると時雨と一緒にテスト対策の勉強をしていた。
それは高校に入ってからも変わらず、こうして誘ってくるところを見ると、今回も危ないのだろう。
凛とデートした後に、そのまま香の家に泊まるコースを辿れば問題ない。
『いいよ。夕方になったら、香の家に向かうね』
時雨はすぐに香に了承の連絡を入れる。
時雨と香は家が近所なので、幼少の頃から何回も寝泊まりしたりしているので、両親も許してくれるだろう。
(明日は色々と忙しくなりそうだな)
スマホを鞄にしまうと、時雨は駅を出て寄り道せずに門限を守って帰宅した。
平屋の一軒家に住んでいる時雨は両親と姉の四人暮らしで生活している。
父はサラリーマン、母は主婦の兼業でパート、姉は都内の私立大学に通っている。
まだ家のローンは残っているが、一般的な家庭だと言える。
「ただいま」
時雨は玄関扉を開けると、洗面所に移動して手洗いをする。
自室に鞄を置いて、鏡の前で私服に着替えていくと、そこには年相応の女子高生がいるだけだった。
時雨は私服に着替え終えると、徐に鏡の前で表情豊かに変化させてみた。
明日のデートは平常心を保とうと試みていたが、凛の姿を思い出すと頬を赤くさせている自分が映り込んでしまっていた。
(何やってるんだろうな……)
深い溜息をつくと、鏡の前を離れて自室の扉が半開きになっている事に気付いた。
扉は閉めたと思ったが、閉め直そうと扉に近付いたところに、姉が微笑を浮かべていた。