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第49話 剣道場

 昼休みになると、加奈はすっかり体調が良くなっていた。

 昼食は香と加奈で机を囲んで、食堂で買った総菜パンを並べて雑談に興じていると、凛から剣道場に来て欲しいとメールが届いた。


「ごめん、ちょっと凛先輩に呼び出されたから行って来るよ」


 メロンパンを口に頬張って牛乳で押し込むと、時雨は席を立って二人に告げる。


「お姫様から呼び出されて、時雨も大変だねぇ」

「お姫様って、また妙な例え方をするね」


 加奈はニヤついて時雨を見送ると、香は笑って軽く突っ込んでみせた。

 時雨達の前世は知らない香にとって、加奈の冗談めかした表現ぐらいにしか捉えていないだろう。


「ははっ……じゃあ、また後でね」


 時雨は内心ひやひやしながら、愛想笑いを浮かべてその場をやり過ごすと、校舎の中庭を移動する。

 昼休みとなると、女生徒達が校庭のベンチで昼食や食後の軽い運動をしている者が見受けられる。

剣道場の建物が見えると、扉の入口に凛の姿があった。


「すみません、お待たせしました」

「私も着いたばかりだから気にしないで。詳しくは中で話しましょう」


 挨拶もそこそこ交わして、凛は剣道場の扉を開いて時雨を招き入れる。

 下駄箱に上履きを収めて中へ入ると、床一面は綺麗に掃除が行き届いている。

 奥にある常勝と描かれた額縁の前に、座して紅葉が待ち受けていた。


「揃ったようだな」


 紅葉の声が響き渡ると、凛は剣道場の扉に鍵を掛けて邪魔が入らないようにする。

 前世に縁がある三人が顔を揃えると、一見すれば先輩後輩の関係でしかないが、一国のお姫様と初恋だった女騎士であった事から時雨の緊張感は自然と込み上げる。

 紅葉は傍に立て掛けてあった竹刀二本を手に取ると、一本を時雨に手渡そうとする。


「話の前にロイド君と剣を交えたい。姫様、よろしいですか?」

「姫様じゃなくて凛よ。全く……やるなら、さっさと始めましょう」

 

 凛は朝のHRが始まる前、紅葉に自身の正体を明かすと、態度が一変して生徒達の前で姫様と連呼したり大変だったらしい。


「ちょっと待って下さい。私は以前のように剣を振るう力はありませんよ」


 竹刀ではあるが、実物の剣を握っていたのは前世までの話だ。

 転生後は普通の女子生活を営んできたので、剣道部で活躍する紅葉の相手をするのは荷が重い。


「試合じゃないわ。あくまで士官学校時代にやったような訓練の一環よ」

「訓練の一環ですか……」


 紅葉と対等に剣を交えられる人間は限られていた。

 当時を振り返って思い出すと、彼女の訓練は他の誰よりも訓練が厳しかった。


「危なくなったら、私が止めに入るわ」


 凛は時雨の耳元で囁くと、断れる雰囲気ではない。


(生きて帰れるかなぁ)


 時雨は天を仰ぐと、竹刀を握って臨戦態勢を整える。

 本物の剣と比べて、竹刀はだいぶ軽くてしなやかだ。

 十数年も剣とは無縁であったが、どうにか剣術の型はできていた。

 身体に染み付いた癖は転生後も忘れてはいなかった訳だ。


「参ります!」


 時雨は意を決して紅葉と対峙すると、剣道場から激しい竹刀のぶつかり合いが鳴り響いた。

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