第47話 保健室
体育館に集合すると、倉庫から卓球台を手分けして運んで設置していく。
二人一組のペアを作るように先生から指示されると、時雨は香とペアを組む。
「じゃあ、始めようか」
時雨がラケットを構えると、ピンポン玉を軽く打って、香は即座に反応してラリーが続く。
香とはカラオケ以外にもレジャー施設で卓球やボーリングを楽しんだりしていたので、息抜きには丁度良い。
「最近、学校の近くに新しくパンケーキ専門店ができたんだ。今日の放課後に行ってみない?」
「それはいいけど、甘いデザートは一発で太るよ」
「デザートは……その、別腹って事でね。それに、昨日は頭をフル回転させてプリントを仕上げたから、体が糖分を求めているんだ」
カロリーを気にしていた香だが、その理論は太るフラグが立っているようにしか聞こえない。
物は言いようだが、宿題を終わらせた労いも兼ねて付き合ってあげようと時雨は思う。
「いいよ。放課後、一緒に食べに行こうか」
「やった!? さすが時雨、話が分かるわ」
香は子供のようにはしゃいで喜ぶと、思わずラケットを大振りに振ってピンポン玉を場外ホームランにしてしまった。
運悪く、ピンポン玉は先生の頭に直撃すると、時雨と香は口頭で注意されて女生徒達から夫婦円満だなと笑い声が聞こえた。
数分後に解放されると、気を取り直して卓球を続けようとしたが、すぐ近くの卓球台にいた加奈が突然うずくまってしまった。
先生が慌てて駆け付けると、時雨も後に続いた。
「すみません、ちょっと……」
加奈はお腹を押さえながら、先生に小声で何かを伝える。
すると、先生は時雨を指名して加奈を保健室まで手を貸して運ぶように言われた。
「加奈、大丈夫? 歩けないなら、保健室まで背負っていくよ」
「……歩けるから、少し肩を貸してもらってもいい?」
辛そうな表情で時雨の肩につかまって歩くと、二人はゆっくりした足取りで保健室を目指す。
普段から明るくて元気のある子なだけに、弱々しい姿を目の当たりにするのはいたたまれない。
「ごめん、更衣室まで寄り道してもいいかな? その……着替えを用意したいからさ」
加奈の要望に応えると、更衣室までやってきてロッカーから着替えを紙袋に詰めていく。
「いやぁ……参ったね。他人の動向を察知するのは得意だけど、自身については全くノーガードだったよ」
「そんなに気を落とさないで。紙袋は私が持つよ」
加奈を支えながら紙袋を持つ歩くと、華奢な時雨の身体は一瞬バランスを崩してしまったが、すぐに持ち直して保健室まで辿り着いた。
周囲を見渡して見ると、どうやら保健室には誰もいない様子だ。
とりあえず、加奈を空いているベッドまで運んで座らせると、紙袋を足元に置いた。
「加奈はしばらくここで安静にしてなよ。私は保健の先生を探して呼んでくるよ」
時雨は保健室を出ようとすると、加奈は呼び止める。
「保健の先生は呼ばなくていいよ。時雨も薄々気付いていると思うけど、どうやら今日は女の子の日だったみたい」
ベッドに備えているカーテンを掛けると、加奈は紙袋を漁り始める。
(やっぱり生理だったか)
時雨も一年前ぐらいから初潮が見られて、下着を汚してしまった経験がある。
前世の頃には全くなかった感覚なので、そのショックは計り知れないものがあった。
現在は自身の生理周期を把握しているので、突然の痛みに備えてはいるが、今の加奈のように突然襲い掛かってくるパターンもあるようだ。
しばらくすると、カーテンが開けられて制服姿の加奈が現れて容態は落ち着いたようだ。
「ふう、保健室まで運んでくれてありがとう。時雨、私の隣に座って話し相手になってよ」
加奈は礼を言うと、時雨をベッドに座らせようとする。
「うん、いいよ」
気持ちが不安定になっているのだろう。
時雨は迷わず加奈の隣に座ると、それを確認した加奈はカーテンを閉め切って二人だけの空間が出来上がった。
「加奈……」
時雨は不安そうに呟くと、時雨の華奢な身体をベッドに押し倒して二人は見つめ合った。




