第46話 更衣室
HRを終えると、一限目は体育なので更衣室に移動する。
小学生の頃は周囲を気にせず体操着に着替えられたが、中学生にもなるとそうはいかなかった。前世では身長も徐々に伸びて、声変わりや筋肉も発達していったが、転生後は胸が少しずつ膨らみ、全体的に丸みのある女性らしい身体つきになっていった。
それは香や加奈も同様で、中学生から体育の授業は男女に更衣室が用意された。
(さっさと着替えよう)
時雨は俯いたまま体操着を握り締めて更衣室に入ると、他の女生徒達に目も暮れずロッカーを開けて着替え始める。
極力、目立たないようにしていると、隣に加奈がやって来て意味深な言葉を吐く。
「毎回、時雨はさっさと着替えて出て行くのは体育好きなのかと思ったけどねぇ」
「加奈……」
加奈はニヤニヤしながらロッカーを開けて着替え始めると、時雨は頬を赤く染めて言葉を詰まらせる。時雨の正体を知っているだけに、女子更衣室と言う密室で一緒にいるのは罪の意識にさいなまれる。
「その……ごめん!?」
時雨は反射的に謝ってしまう。
素早く着替え終えて更衣室から出ようとすると、加奈は引き止めて時雨の腕を両手で掴んだ。
「時雨はもう女の子なんだからさ。ゆっくりとこの楽園を堪能していきなよ」
「加奈は……男だった私がここにいて変態とか気持ち悪いとか思わないの?」
心の奥底に閉まっていた自身に対する評価を怖々と加奈にぶつける。
香を含めたクラスメイト全員には秘密にしていたので、卑怯者と揶揄されても仕方がない。
「全然思わないよ。時雨なら、挨拶代わりにこんな事をしてもいいぐらいだよ」
加奈は首を横に振ってみせると、少し離れた位置でクラスメイトの女生徒達と会話をしながら着替えている香の背後に回って、胸を鷲掴みする。
「加奈、何するんだ!」
「おや? この前と比べてまた大きくなったわね。いやぁ、時雨が香の胸がどれぐらいあるか確かめたいって言うからさ」
「時雨が?」
香は加奈の手を振り払うと、今度は時雨が首を横に振って必死に否定する。
その様子に、香はにこやかな笑顔になる。
「そういう事なら、いつでも言ってくれれば確かめさせてあげるのに。時雨なら大歓迎だよ」
加奈と時雨では扱いが雲泥の差だなと思いながら、香は時雨の前に立つと、この後の展開が何となく読めるので面倒事になる前に時雨は更衣室を退散していった。




