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第454話 怪しい訪問者

 雨音が途絶えることなく時間だけが過ぎていく。

 理恵は外へ出て行ったきり、戻って来る気配がない。


(何かあったのかな……)


 バケツをひっくり返したような天候不順であり、一人で山を下りるような危険な真似を理恵がするとは思えない。

 怪我をして身動きが取れない状態でいるのか、もしかしたら魔物や賊と鉢合わせて危険な目に遭っているのかと悪い方に不安が募って来る。

 こんな事なら、無理してでも一緒に行くべきだったと後悔しながらも、時雨は立ち上がって外へ足を運ぼうとする。

 すると、勢いよく水飛沫を飛ばしながらこちらへ駆け寄る者が現れて、時雨は理恵が戻って来たのだと期待をしながら出迎えようとした。


「おや? こちらに凄腕のダークエルフがいるとの噂を耳にしていたのですが」


 全身を黒いフードに覆った男の声に、それが理恵でないことは一目で分かった。

 時雨や理恵のような遭難した者とは違い、黒いフード男の言動から加奈と接触するための目的があるように見受けられる。


「凄腕かどうかは知らんが、私がダークエルフだ」


 奥の方から面倒臭そうに起き上がり、加奈はこちらを凝視する。


「おお、貴女でしたか。お会いできて光栄です」


 黒いフード男は時雨を押し退け、理恵に握手を求めようとする。

 それが嫌なのは一目瞭然で、得体の知れない者と握手を交わす気がない加奈は無視して代わりに腰に下げている短刀を抜いて切っ先を黒いフード男に向ける。


「まあまあ落ち着いてください。私は貴女の腕を見込んで仕事の依頼をしに来たのですよ」


「仕事だと?」


「ええ、受けて頂ければ前金で金貨百枚差し上げます」


「ふん、仕事ならギルドを通すなりして腕の良い冒険者にでも頼めばよかったな。有り金置いて出て行きな」


 この世界での金貨百枚は感覚的に百万円に近かった筈だ。

 そんな大金をギルドを通さず、非合法な活動をしている加奈に仕事を依頼するからには普通の仕事ではないと安易に想像ができる。

 時雨は二人の間に入ると、加奈をなだめた後に黒いフードの男へ仕事の断りを入れる。


「雨が止んだら、このままお引き取りください」


「はい、そうですかとこちらも簡単に引き下がる訳にはいかないんですよねぇ。ところで、貴女は今更ですが何なんですか?」


「私は……旅の修道女(シスター)です。貴方こそ、一体何なんですか?」


「答える義務はありませんね。貴女こそ、さっさとこの場から消えてもらいましょう」


 黒いフード男の腕が時雨の喉元を捉えると、そのまま強引に壁際まで押し付ける。


「異質な来訪者に予定は狂いましたが、これはこれで利用価値がありそうだ。この旅の修道女(シスター)の命が惜しければ素直に依頼を受けてくれませんかねぇ?」


 時雨を人質にして無理矢理でも依頼を引き受けさせようとする黒いフード男に、加奈は冷たい眼差しでこちらを窺っている。


「そんな奴の命は私の知ったことではないが、性根の腐ったような人間の依頼を受ける気にはならん」


「ふーん、プライドの高いダークエルフのお嬢さんだ。仕方がない、他を当たって君達には私の実験に付き合ってもらおうかな」


 勝手にしろと突き放す加奈だが、黒いフード男は時雨を解放すると小瓶を取り出してそれを地面に叩きつけて割って見せる。

 小瓶の液体が漏れ出すと、甘いお菓子のような香りが漂い始めて全身の力が抜けて行くような感覚に囚われていく。


「そのまま楽にしていてください。夢心地のまま、何もかも忘れて消えてなくなりますからねぇ」


 黒いフード男は背を向けたまま去ろうとすると、最早二人に眼中がない。

 局所的な洞穴ともあって、甘い香りは二人を包み込むように蝕んでいく。


(意識が……)


 意識を保つのに必死だが、それも限界に近い。

 それは加奈も同様で激しく咳込みながら、壁に寄りかかって為す術もない。

 そうしている内に、時雨も膝をついて黒いフード男に手を伸ばして制止しようとするが、追跡する事もできずに虚しく倒れ込むしかなかった。

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