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第451話 目覚めた先に

 吸い込まれた衝撃で意識が飛んでしまったようで、時雨は頭を押さえながらゆっくりと目を開ける。


「やっと、お目覚めですか」


 声の方に振り向くと、そこには岩場で腰を下ろしている理恵の姿があった。


「ここは?」


「さあ、少なくとも電波の届かない場所であるのは確定してますよ」


 時雨の問いに、理恵も答えを見出すことはできずにいるようだ。

 分かっていることは、ここがスマホの電波が届かない県外であり、人気のない寂れた山道のようなところにいる。


「はぁ、また変な場所に飛ばされましたねぇ。以前は貴女と病院巡りで大変な目に遭いましたけど、今回は何が待ち受けているのやら」


 どうやら、以前にも理恵とミュースは現状のような体験をしていたらしい。

 理恵は深い溜息を付いて空を見上げると、陽は沈みかけて辺りは暗くなり始めている。

 山道を抜けて町まで繰り出したいところだが、スマホで連絡や現在地の確認ができない以上、無闇に移動するのは危険だろう。

 こうなった原因はあの黒猫だろうか。

 それなら、どこかで見張っているかもしれないと時雨は周囲を見渡すが、それらしい気配は何もない。


「理恵は……理恵さんはどうしてあのマンションに?」


「んっ? ああ、あの赤髪の女神様にこっそりと経過報告を届けに来たんですよ。本当は時雨達の子守りより残党狩りに参加したいんだと思いますけど、色々やらかしてますからね」


 キャスティルに手渡すはずだった書類の束を見せる理恵は「あっ、この事は内密にお願いしますね」と付け加える。

 救助の期待ができない現状、今日は野宿も覚悟する時雨と理恵は近くの散策を続けて小さな洞穴があるのを見つけた。

 それと同時に天候は急に崩れ始めて雨足が強くなり、二人は駆け込むように洞穴の中へ避難する。


「もう、最悪ね。服はびしょ濡れだし、今日のところはここで野宿ですかね」


「ええ、でも手頃な雨宿りのできるところが見つかって助かりました」


 雨に打たれて散々な目に遭う二人。

 理恵は冷えた体を温めるために衣服を躊躇なく脱ぎ始めると、時雨は反射的に目を背けてしまう。


「女神様も早く脱いでしまった方がいいですよ」


「私は……このままでいいです」


「いや、駄目ですよ。そのまま放置していたら風邪を引くどころか体温が奪われて命の危険に繋がる」


「わ、分かりました」


 たしかに、このままだと理恵の言う通りになるかもしれない。

 こんな状況ではあるが、あまり同級生の前で露出を晒したくないと言う感情が表に出てしまい、理恵に疑いの目を向けられてしまう。


「何か様子が変ですねぇ。どこか体調が悪かったりします?」


「べ……別に何ともないですよ」


「ふーん、それならいいんですけどね」


 眉をひそめながら、こちらを窺う理恵に時雨は戸惑って返答する。

 ミュースと入れ替わって生活しているのは一応内緒にしておく事になっているが、勘の良い理恵なら見破られるのも時間の問題かもしれない。

 時雨の演技が下手なのも要因ではあるが、キャスティルのような女神を除いて凜は見事に看破して正体を見破った経緯を踏まえて、時雨として生活しているミュースは上手くやっているのだろうか。


(大丈夫かな……)


 ミュースの心配も含めて、この置かれた状況に不安が募る時雨は衣服をゆっくり脱ぎ始める。

 理恵はジッポを取り出して火種を起こすと、とりあえず寒さを凌ぐ事はできそうだ。

 二人は冷えた体を温めようと暖を取って一息付いていると、理恵は洞穴の入り口に目を向けて何かを察知する。


「何かこっちへ近付いて来る」


「まさか、野生の熊や猪が?」


「いや、そんな感じじゃないわね」


 時雨も何かこちらへ近付いて来る気配を探知すると、最悪の来客者を口にしてしまうが、理恵はそれをあっさり否定する。

 もしかしたら、二人の救助に駆け付けた者かと期待をしたが、正体不明の来客者は意外な人物だった。


「加奈!」


 尖った長耳に褐色肌が特徴的なダークエルフの姿をした加奈だ。

 見慣れた顔が映り込んで時雨は安堵の息を漏らすと、加奈は怪訝そうな顔で時雨に言葉を投げかける。


「よかった、助けに来てくれたんだね」


 時雨は加奈に駆け寄ろうとすると、加奈は瞬時に腰に下げていた短刀を抜いて刃を時雨に向ける。


「お前達、何者だ?」


 警戒心を剝き出しに問う加奈に、いつもの雰囲気と違う事にようやく気付いた時雨は新たな不安が募ってしまった。

病院巡りに関しましては『群雄割拠した異世界では訳アリな人物で溢れていた』第345話~353話を参照してもらえれば幸いです。

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