第441話 珍客
辺りは静まり返り、時雨はすぐに加奈が無事かどうか駆け寄った。
「大丈辺夫、悪い怪異は私が祓ったから安心していいニャ」
祓ったと言うより、吸い込んで消化してしまったと表現した方が正しいような気もする。
何はともあれ、加奈に憑いていた怪異は白猫のミールの活躍により大事にならずに済んだ。
「ミールさん、加奈を助けてくれてありがとうござ……」
時雨は親友を助けてくれた白猫のミールに感謝の言葉を言おうとしたが、途中で言葉が詰まってしまった。
その理由は彼女の見た目が変化してしまったからだ。
「あの……その姿は?」
「勢い余って変身能力に一部障害が発生したニャ。おかげでムチムチな身体になってしまったニャ~」
肩に乗ったりして身軽な白猫だった彼女は全身の毛が長くなり、身体も大きくなってしまっている。
猫種で例えると、メインクーンのような大型猫に近いだろうか。
見た目は大きくなってモフモフ感は増したが、本人曰く体調等に問題はないそうだ。
「肩に乗っていいかニャ?」
「その状態で肩に飛び乗ったら、肩が外れて死んじゃいますよ」
時雨は白猫のミールの頼みを丁重に断る。
元の白猫の時より倍以上の体重があるのは確実だからだ。
横になっている加奈を布団に寝かせると、白猫のミールは加奈のお腹に肉球の手を当てながら、うどんを捏ねるような仕草でフミフミし始める。
「加奈君はしばらく寝かせておけば、体力も戻って動けるようになるニャ」
「ありがとうございます。私は加奈が目覚めた時に何か食べられそうな物を作っておきますので、その間は加奈を診ててもらってもいいですか?」
「OKだニャ~。ついでに私にも甘い物を作ってくださいニャ」
「はいはい、分かりました。とびっきり、美味しい物をご用意します」
白猫のミールは上機嫌で加奈の看病に努めると、ここは彼女に任せて大丈夫だろうと時雨はその場を後にする。
加奈には目覚めたばかりで胃に負担が掛からない物を食べさせようと、台所にある食材から手頃なそうめんを見つけた。
(これにしよう)
この猛暑の中、冷たいそうめんなら病み上がりの加奈もすぐに食べられるだろう。
後は白猫のミールに甘い物を作るのだが、こちらは市販のホットケーキミックスと幾つかの果物を見つけてケーキでも作ろうかと思う。
親友の加奈を救ってくれた白猫のミールにはお礼も兼ねて喜んでもらいたい。
時雨が作れそうなケーキのレシピをスマホから検索すると、華やかなフルーツケーキがあった。
材料も揃っているし、これなら時雨でも作れそうな範囲内だ。
早速、料理に取り掛かろうとした時、時雨の前に妙な珍客が姿を現した。
「えっ?」
台所のテーブルに乗っかっているその珍客に対して、時雨は凝視してしまう。
黒猫だ。
しかも、先程大きくなった白猫のミールみたいな大型猫だ。
その黒猫は時雨をじっと睨みながら、尻尾をバタつかせて何かを訴えかけているようだ。




