第438話 寝顔
翌日、時雨は眠い眼を擦りながら布団からゆっくり起き上がる。
「えっ?」
妙に胸の辺りに違和感を覚えると、何だか風通しが良い。
時雨は下を覗き込むと、衣服が無惨に破けて肌が露出しているのだ。
言葉にならない声を上げる時雨はその場にへたり込んでしまうと、窓際で大の字になって白猫のミールが眠っている。
おそらく、眠っていた時雨の胸に入り込んだ後に寝相が悪い白猫のミールは衣服を突き破って現在に至るってところだろう。
そんな惨事に気付かない程、時雨はぐっすり眠っていたのは日頃の疲れが相当溜まっていたのかもしれない。
とりあえず、現状は目のやり場に困るのでキャスティルが用意してくけれた洋服に着替えを済ませておきたい。
(それにしても……大きいな)
時雨は破れた衣服を脱いで、改めて胸の重みに圧倒的されてしまう。
少しぐらい触ってもと邪な考えが過ぎると、首を横に振って自身を律しようとする。
騎士として、人として身体の持ち主であるミュースを裏切るような真似は駄目だ。
無心になって着替えを終えると、起床したばかりで喉が渇いている事に気付いた。
リビングの扉を開けて、その先にあるキッチンの冷蔵庫から牛乳を取り出そうとすると、リビングのソファーでキャスティルが眠っていた。
クーラーの涼しい風が効いているとはいえ、毛布も掛けないで肌着一枚の状態で眠っていたら風邪を引いてしまうかもしれない。
時雨は部屋から自身が使っていた毛布を持ってきて、キャスティルを起こさないようにそっと掛けようとした。
(これは……)
普段は見せないキャスティルの寝顔に時雨は胸の高鳴りが止まらない。
目付きが悪く、姉御肌が特徴的な彼女からは想像ができない姿だ。
しかも、こんな近距離で拝顔できるとは思わなかった。
毛布を掛け終えると、時雨は女神の寝顔に敬意を表して静かに手を合わせる。
目覚めて早々、白猫のミールに衣服を破られてツイてないなと悲観気味であったが、それを帳消しにしてしまうぐらい目の保養になった。
「時雨君、おはようニャ~」
背後から時雨に陽気な白猫のミールが朝の挨拶をすると、時雨は驚きながら白猫のミールに振り向こうとする。
突然の出来事だったので、現実に引き戻された時雨は振り向く際に慣れない胸の重みで身体の重心を崩してしまいソファーに眠っているキャスティルへダイブする形となってしまう。
「うわぁ!」
悲鳴と共に、キャスティルの顔に時雨の胸が降り注ぐ。
「あっ……何だ、これは!」
異変に気付いたキャスティルの第一声は両胸に顔をうずめて、暗闇と弾力のある空間で目覚める。
「ごめんなさい!? すぐに退きます」
時雨はすぐに上体を起こして、寝癖の悪いキャスティルが不機嫌そうにソファーから起き上がる。
原因を探ろうと時雨と白猫のミールを交互に視界へ入れると、「ニャハハだニャ~」と笑い声を上げる。
「また、お前のクソみたいな悪戯か!」
怒りの矛先は白猫のミールに向けられ、普段の行いから彼女が犯人だと断定する。
「偶然の悪戯ニャ~」
一応、弁明はするが聞く耳を持たないキャスティルは白猫のミールを追い回す。
騒がしい朝を迎えながら、時雨は先程の牛乳で喉を潤しながら女神達は今日も元気だ。




