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第433話 救出

「お前、ミール様のお付きにあんな言葉を投げ掛けるなんて死ぬつもりか」


 店の外でゴスロリ服の女神が時雨に青ざめた表情を浮かべながら詰め寄る。

 目の前に百万円の大金を見せられて、正常な判断ができなかったのもある。

 冷静に考えれば、時雨達の窮地を救うためにお金を工面してくれたのだが、偽札と疑ってしまったのは申し訳ない気持ちになってしまう。


「すみません、反省しています」


「お前の失態のおかげで、私まで処分されるのは嫌だからな。発言にはマジで注意しろ」


 今はミュースの身体を借りている状態なので、彼女の評価を落とすような真似もしたくないのが本音だ。

 ゴスロリ服の女神の言う通り、今後は発言に注意した方が懸命だ。


「それと、上階で騒ぐのは程々にしろ。うるさくてかなわん」


「重ね重ね、申し訳ありません」


 騒がしかったのは事実だったので、これも時雨が代表してゴスロリ服の女神に謝罪する。

 ショルダーバッグから白猫のミールが顔を出すと、「ニャ~」と鳴き声を上げる。

 何となく、気にするなと投げ掛けているような気がした。


「そろそろ、子守りの子供(ガキ)を迎えに行かないといけない時間だ。私の周りで面倒事は勘弁してくれよ」


 ゴスロリ服の女神は時雨に釘を刺すと、そのままタクシーを拾って去って行った。

 嵐のような出来事が連続して続いたが、白猫のミールはいつもの調子で気の抜けた言葉を口にする。


「お昼は美味しかったニャ~。また一緒に食べに行こうニャ」


「ミールさんが満足してもらえてよかったです。今度はちゃんと財布に余裕を持たせて行きましょうね」


「ニャハハ、お金が足りなかった事はキャスティルに内緒ニャ。バレたら口うるさい説教が始まるニャ」


 白猫のミールは小さな猫の手で口に当てるポーズを取ると、二人だけの内緒にしてほしいようだ。

 ミールの暴走を止められなかった監督不行き届きでキャスティルのお説教は時雨も勘弁願いたかった。


「用事も済みましたので、そろそろ戻りましょうか。それとも他に何か見て行きたい場所とかありますか?」


「スーパーで買い物して行こうニャ。甘いお菓子を沢山見て行きたいニャ~」


「なるほど、分かりました」


 甘いお菓子をご所望な白猫のために時雨は近くのスーパーへ足を運ぼうとする。


(本当にお菓子が好きなんだなぁ……)


 今日だけで女神の喫茶店で特製のかき氷と回転寿司屋で山のように積み上げた空皿で胃袋は混み合っている筈なのだが、白猫のミールはいつもと変わらない。

 しばらく歩き回っていると、駐車場を構える大型スーパーを発見した。

 先程、ミールのお付き人が持参した札束で時雨も好きな物を買っていいよと白猫のミールから許可は下りたが、さすがにそれは気が引けたので白猫のミールが所望するお菓子だけに使う事にした。


「時雨君は謙虚だニャ~。もっとガッツリ肉食系みたいな振る舞いをしても罰は当たらないニャ」


「私は謙虚なぐらいが丁度いいんですよ」


「ニャ~、これは時雨君を狙っている女子達は苦労するニャ」


 小さな声で溜息を漏らす白猫のミールだったが、時雨はよく聞き取れなかった。


「何か言いましたか?」


「何でもないニャ~」


 白猫のミールはショルダーバッグから抜け出して、時雨の肩へ乗って見せる。

 意気揚々と口笛を吹いて誤魔化す白猫のミールに時雨は気にせず駐車場を抜けてスーパーへ入店しようとする。

 だが、一台の乗用車を通り抜けようとした時だった。


「あっ!」


 時雨は思わず大きな声を上げてしまった。

 通り抜けようとした乗用車の中に小さな子供が(うずくま)っていたのだ。

 近くに保護者らしき人物はどこにもなく、乗用車に子供を放置しているのは明白であった。


「早く出してあげないと! くそ……やっぱりドアはロックされている」


 この炎天下の中、エンジンがかかっていない車に留まるのは命の危険がある。

 時雨は子供を救出しようと試みるが、ドアはロックされて開ける事ができない。

 ガラスを割ってみようかと思ったが、たしか車のガラスは簡単に割れるような代物ではなかった筈だ。


「時雨君、少し車から離れているニャ」


 白猫のミールは時雨の肩から降りると、彼女の言う通りにして一歩下がった。

 そして白猫のミールは軽く跳躍して車のガラスにネコパンチを繰り出すと、粉々に粉砕してしまった。

 すぐに白猫のミールは子供の傍に駆け付けると、小さな肉球を子供の額に当てる。


「ギリギリだったけど、命に別状はないニャ」


 白猫のミールは安堵の声を上げると、時雨もガラス片を注意しながら車中の子供を引っ張り上げて救出する。

 どうやら、ミールによる回復の処置が間に合ったようで大事には至らなかったようだ。

 それでも子供は気を失っているので、時雨はスマホを取り出して救急車の手配をしようとする。


「おい! そこで何してやがる」


 怒鳴り声が響き渡ると、ガラの悪い男がこちらに近付いて来る。

 どうやらこの乗用車の持ち主のようだ。

 この惨状を目の当たりにして、ガラの悪い男は怒りが収まらない様子で時雨の胸倉を掴む。


「俺の車をこんな風にぶっ壊したのはお前か!」


「子供がいたので……」


「そんなの知るかよ! 修理代はちゃんと払ってくれるんだろうなぁ?」


 ガラの悪い男は乗用車を壊された事に対して、時雨の言い分には聞く耳を持たない。

 明らかに悪いのは子供を放置した側にあるのだが、こちらが無断で車のガラスを壊したのも事実だ。


「修理代に五百万円を用意しろ。できなければ、どうなるか分かってるんだろうな?」


「そんなお金ありませんよ。それに自分の子供を放置するなんて親として無責任ですよ!」


「他人にしつけをとやかく言われる筋合いはねえよ。金を払わないなら、場所を変えて取り立るだけだ」


 時雨の性善説も虚しく、ガラの悪い男は強気になって押し倒す勢いだ。

 見兼ねた白猫のミールは先程のネコパンチを繰り出して黙らせようとするが、それは燃えるような赤髪の女神によって遮られた。


「ほう、どこに連れて行ってもらえるか興味があるな」


「キャ……キャスティルさん」


 キャスティルがガラの悪い男から時雨を引き離すと、彼女が間に入って面と向かい合う。


「は? いきなり何だよ、お前は……」


「質問しているのはこちらだ。場所次第ではお前の今後の人生が左右されるぞ」


 キャスティルは鬼の形相で睨み付けると、身体全体から殺気が迸っている。

 それを肌で感じ取ったのか、ガラの悪い男はキャスティルに圧倒されて口を塞いでしまう。


「はっ! それで脅しているつもりかよ。俺に何かあれば、血に飢えた俺の仲間が黙ってねえぞ」


「ほう、それは興味深いな。是非ともその血に飢えた仲間の元まで案内してくれ」


 挑戦的な笑みを浮かべるキャスティルはそのままガラの悪い男と白猫のミールが壊した乗用車に乗せて車を走らせる。

 駐車場に残された時雨は呆然と見送る事しかできなかった。

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