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第430話 喫煙者に優しくない

 罰が悪そうに懐から煙草を取り出す女神は一服しようとする。


「ここは禁煙ですよ」


 警察署の敷地で堂々と煙草を吸おうとする女神に時雨は注意を促す。

 キャスティルを含めて、意外と喫煙者の割合が多いような気がする。

 ミュースは少なくとも時雨達の前で煙草を吸っていないし、普段から持ち歩いている気配はない。


「ちっ、喫煙者に優しくない星だな」


 小さく舌打ちする女神は煙草を諦めて、そのまま運転免許更新手続きの別館へ入って行く。

 時雨もその後を追うようにすると、受付の列に並んで簡単な視力検査を受ける。

 その後は別室に案内されて証明写真を撮り終えると、教室で車の運転に対する指導が始まる。

 偶然にも席の隣が女神と一緒になり、軽く会釈をして見せるが時雨の顔を見るなり女神はそっぽを向いてしまう。


(嫌われているなぁ……)


 喫茶店の女神の件もあって、相手の機嫌を損ねたらどんな行動に出るか分からない。

 あまり深く関わって、警察署内で暴れられでもしたら完全に前科者となってしまうだろう。

 しばらく意識を女神から逸らして講習に集中していた時雨であったが、無事に全ての過程が終了して更新された運転免許証を手に入れる事ができた。

 目的を果たした時雨は安堵を覚えて、ショルダーバッグの白猫のミールと共に警察署を後にしようとする。


「おい、少しだけ私と付き合え」


 背後から時雨をふてぶてしい態度で呼び止める人物がいる。

 例の女神だ。


「わ……分かりました」


 本当は早くこの場を去って白猫のミールと昼食でもしたいところだが、断ると何をされるか分からないので、とりあえず時雨は了承する。

 黙って従いながら女神の背後を付いて回ると、女神は回転寿司屋ののれんを潜り抜ける。

 てっきり、人気のない怪しい場所に案内されて焼きを入れられるかと不安になっていたところだ。

 テーブル席に案内されて、時雨はショルダーバッグを座席に置くと険しい表情の女神と向き合う。


「お茶を淹れますね」


 率先して時雨は湯呑にお茶を注ごうとすると、それまで大人しくしていた白猫のミールがショルダーバッグから顔を出してレーンに流れている回転寿司に夢中になる。

 女神の癇に障って機嫌を損ねるかと思ったが、女神は白猫のミールを無視して重い口を開く。


「部下の後始末を任されて、お前も大変だな」


 何を言われるか警戒していたが、まさか同情される声を聞けるとは思わなかった。

 たしかミュースの部下であるペトラと言う女神が原因で異世界転生が発生し、その後始末に上司のミュースが担当になって時雨達の前に現れた。


「これも女神の仕事ですので……」


 差し障りのない台詞で時雨は返答する。

 この女神は時雨とミュースが入れ替わっている事を知らない。


「優等生みたいな台詞を吐きやがって、嫌味のつもりがつまらん野郎だ」


 面白くないと言わんばかりに女神は懐から煙草を取り出して一服しようとすると、慌てて時雨は制止する。


「ここも禁煙ですよ」


 禁煙の張り紙を指差す時雨に女神は深い溜息を漏らしてしまう。


「本当に喫煙者に優しくない星だな」


 諦めるようにして煙草を元の懐へ戻すと、女神は仕方なくレーンから回転寿司を一皿取って見せた。

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