第426話 魂の共鳴
あれ以来、凛に触れても何も起きなかった。
考えられるとすれば、時雨がミュースの身体で凛に触れた事が原因だろうか。
「これはその……」
「やっぱり、貴女は時雨なのね」
凛は何か確信を得たように、もう一度時雨の両手を握って見せる。
彼女の真っ直ぐな瞳で覗かれると、時雨は観念して黙って頷く事しかできなかった。
「いつものミュースさんとは雰囲気が少し違う気がしていたけど、まさか相談相手が時雨だったとは夢にも思わなかったわ」
キャスティルを『さん』付けで呼称し、呼び捨てにしなかった辺りから変な感じではあったが、姿形や声は本人のものだったので凛は軽く受け流していた。
知らなかったとはいえ、凛としては一番選んではいけない相談相手を引き当ててしまった訳だ。
「バレてしまったニャ~。入れ替わった状態でも魂の共鳴が発現するとは思わなかったニャ」
「えっ? 猫ちゃんが喋った!」
凛は突然喋り始めた白猫のミールに驚きを隠せなかった。
ミールは入れ替わったミュースと時雨について、その経緯を淡々と語り始める。
「時雨君や他の異世界転生者達は魂の状態が特殊でね。少々強引だったけど、魂の器を交換して実験をさせてもらっていたんだニャ~」
「実験って……時雨にもしもの事があったら、どうしてくれるんですか!」
大切な人を実験の道具のような扱いをされて、凛は身を乗り出してミールに抗議する。
勿論、安全を確認した上で実行に移しているだろう。
「時雨君は私が責任を持って対処するニャ。万が一、時雨君の命を落とすような事態になれば私の命を差し出しても構わないよ」
ミールの確固たる決意は変わらず、一歩も引かない。
自身の命を差し出すまで成し遂げようとするこの実験の意図は果たして何なのだろうか。
「ミュースさんから私達、異世界転生者を保護するのが目的だと窺っています。仮に放置したままだったら、どうなりますか?」
「そうだね……あまり詳しくは話せないけど、最期は寿命を全うして自然死を迎えるなら問題ないよ。問題があるとすれば、不運な事故に巻き込まれて死亡するパターンや第三者の手によって殺されるパターンだ。その場合、魂が不安定になって消滅してしまう可能性がある。以前、シェーナ君の親友だったダークエルフも存在自体を消されてしまう事態になった時は辛うじて魂まで消滅はしなかったが、かなり危ない段階だったんだ」
「では……私達が寿命を迎えるのを見届けるのが真の目的なのですね」
「結論から言うと、その通りだよ。君達がキャスティルとカフテラの二人に何かされそうになった時は正直焦ったよ。時雨君に至っては色々な人物に絡まれたりして危ない場面もあったから、今はキャスティルを筆頭に目を光らせているよ」
魂を正常且つ円滑に管理するのは女神の仕事だからねとミールは話を締め括る。
ミールの目を凝視する凛は彼女が嘘を付いているとは思っていない。
これ以上は機密事項に抵触するから部分もあるため、時雨達に伝えられる内容はここまでのようだ。




