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第425話 見送り

「相談に乗っていたたぎ、ありがとうございました。素敵なプレゼントを揃えられそうです」


「お役に立てて良かったです」


 凛が丁寧にお礼を言うと、この場を無事にやり過ごした達成感に時雨は安堵していた。

 喫茶店の女神がテーブルの後片付けをしながら、その横で白猫のミールは時雨と凛を微笑ましく眺めている。


「ニャ~」


「猫ちゃんも相談に乗ってもらって、ありがとうね」


 凛は白猫のミールにもお礼を言って、頭を優しく撫でる。

 結局、特製かき氷を二杯完食した白猫のミールであったが、食いしん坊な白猫と言う認識で余計な詮索はしないでくれた。

 凛が財布から一万円札を取り出すと、喫茶店の女神がそれを制する。


「お代は結構ですよ。転生者様からお金を受け取ると、私が叱られてしまいます」


「しかし、あんなに立派なかき氷は転生者と関係ない猫ちゃんが食べちゃいましたし、その分だけでも……」


 あくまで喫茶店の経営は表向きであり、女神達とアメリカ側が集うセーフハウスの役割が本質である。

 白猫のミールは一万円札を銜えて器用に凛の財布へ戻して見せる。


「またのお越しをお待ちしております」


 喫茶店の女神は一礼し、そのまま厨房へ姿を消した。


「さあ、行きましょうか。駅までお見送りしますよ」


 時雨は喫茶店の扉を開けて、紳士的に凛のエスコートを買って出る。

 それと同時に白猫のミールが跳躍して時雨の肩に乗ると、特製かき氷二杯分の重みが加わって先程に比べて確実に重たい。


(少し重いなぁ……)


 そんな事を頭に思い浮かべていると、ミールには筒抜けのようで不満そうな鳴き声を上げる。


「実はこれから夏合宿の一環で剣道部の後輩に指導をするために、大通りでタクシーを捕まえて学校へ行きますので、お見送りはここで大丈夫です」


「学校で指導ですか。たしか剣道部はもう退部なされた筈では?」


「ええ、夏休み前に退部しました。顧問の先生や部活仲間から、夏休みの合宿中に少しだけでも顔を出して欲しいと頼まれましたので引き受けてしまいました」


 自身のせいで時雨を巻き込んでしまった凛は負い目を感じて、見えない前世の時雨の亡霊に呪縛を掛けられて今まで一心不乱になって剣を握って来た。

 時雨に悟られてからはその呪縛も解けて、新たな人生を再出発する事になったのだ。

 時雨と出会っていなければ、剣道部の夏合宿に参加していた凛だったが、エースの看板を背負っていた凛が抜けて剣道部は足並みが揃っていないらしい。

 剣道部に迷惑を掛けて責任を感じた凛は夏合宿の参加だけ決めたようだ。


「私に憧れて剣道部に入部した生徒もいましたから、私が突然辞めてショックを受けた子もいると窺っています。身勝手な女だと思われていても仕方ありません」


「凛せん……凛さんが考え抜いて決断したのですから、私は凛さんの味方ですよ。時雨さんもこの場にいたら、きっと同じ事を言うと思います」


 凛の気持ちを察して、時雨は凛の両手を握って見せる。

 ミュースの姿を借りて時雨の言葉を代行する形になってしまったが、他の生徒からどんな風に後ろ指を指されても凛の味方であるのは変わらない。

 すると、凛の両手を握った瞬間に二人は奇妙な感覚に囚われる。

 学校の廊下で凛とすれ違いざまにプリントの束を落としてしまい、その時に凛と手を触れたあの感覚が蘇る。


「時雨……なの?」


 凛は静かに手を放すと、この世で最も愛しい人の名を告げた。

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