第423話 一服
誕生日プレゼントの件は時雨のアドバイスもあって、とりあえず検討する余地ありと言う形で決着となった。
「お待たせしました」
厨房から喫茶店の女神が注文した品々を運び込んで来た。
自分の誕生日プレゼントで色々と意見を交わして、丁度一服して喉を潤したかったところだ。
「ふう……美味しいですね」
夏の炎天下を歩いて来た事もあって時雨は一気にオレンジジュースを口に運ぶと、喉が潤って生き返る気分だ。
凛も前髪を掻き分ける仕草をしながらアイスコーヒーを一口飲むと、時雨の豪快な飲みっぷりに思わず笑みを浮かべる。
「ふふっ、外は暑かったですからね」
その一言で、時雨はハッとなってしまう。
(これはまずい……)
普段のミュースなら、ストローで軽く喉を潤すだろう。
居酒屋で最初のビールを一気飲みするサラリーマンの如く、オレンジジュースを口にしてしまった時雨は気まずい雰囲気だ。
「その……最近、女神の仕事が多忙でしたので」
咄嗟に女神の仕事を言い訳にしてしまったが、カウンター席で白猫のミールの視線が刺すように痛い。
「ニャ~」
もっとマシな言い訳があるだろと訴えているように時雨は聞こえた。
ミュースや凛のように、おしとやかな振る舞いはどうしても苦手だ。
賑やかな香や加奈と一緒に過ごして来た時雨にとって、この時ばかりは改めて有り難い存在なんだと思い知らされた。
「白猫様には特製かき氷をお持ちしました」
喫茶店の女神はカーゴを引っ張りながら、皿からフルーツが溢れんばかりに盛られており、見事な氷山を象ったかき氷が白猫のミールのために用意された。
特製かき氷と称するだけあって、二人以上でシェアするタイプの代物だ。
「ニャ~ン」
目を輝かせながら、喜びの雄叫びを上げる白猫のミールは特製かき氷に夢中のようだ。
こちらも、たちまちにして氷山がミールの胃袋へ姿を消して行く。
「凄い猫ちゃんね……」
凛は少々引いた眼差しで、白猫のミールを観察する。
先程の時雨の飲みっぷりが霞んでしまうぐらいの衝撃だ。
程なくして特製かき氷の皿は空になると、白猫のミールは綺麗な眼差しで喫茶店の女神で何かを訴えかける。
「おかわりですね。かしこまりました」
瞬時に悟った喫茶店の女神は一礼すると、空の皿を下げて新たな特製かき氷をカーゴに乗せて登場する。
これには客として居座っているサラリーマン風の者達にも目に止まってしまい、かなり目立ってしまった。




