第421話 相談
「こんにちは。えっと……今日も暑いですね」
凛と想定外の鉢合わせで時雨は緊張と焦りから、とりあえずミュースを演じる事に力を注ぐ。
凛の住んでいるタワーマンションからここまで散歩するには距離があるし、おそらくキャスティルのマンションか女神の経営する喫茶店へ訪ねるつもりだったのかもしれない。
「実は折り入ってご相談したい事がありまして、キャスティルさんのマンションへ丁度向かうところでした」
「ご相談……ですか」
この猛暑の中、凛のような人物が相談事を持ち込んで訪ねるのは一体何なのだろうか。
時雨と違って成績優秀な凛は勉強や交友関係は良好なので、その線は薄いだろう。
金銭面に関しても裕福な家庭環境なので考え難い。
(体重とか……かな?)
香や加奈を含めた同級生の女子高生は容姿や身体的な悩みを打ち明ける事が多々ある。
先週と比べて体重が増えたとかニキビができてケアが面倒等の話はよく聞く話だ。
女子生徒から憧れの的である凛はそんな些細な悩みを気軽に相談できるとは思えず、こっそり女神に相談するのはありそうだ。
「私でよければ相談に乗りますよ」
「ですが、何か用事があるのではありませんか?」
凛の言う通り、運転免許の更新手続きはあるが集合時間の指定はない。
夕方までに間に合えば問題ないので、凛の相談を乗る時間ぐらいはあるだろう。
時雨の肩に乗っている白猫のミュースも「ニャ~」と短く鳴いて問題ないと合図を送る。
「大丈夫ですよ。ここからだとキャスティルさんのマンションより例の喫茶店の方が近いですし、そこで相談を窺いましょう」
「それならいいのですが……相談に乗っていただき、ありがとうございます」
凛は頭を下げて感謝を述べる。
凛の力になれるなら、時雨としても光栄であり喜ばしい。
この時点で時雨は気付いていないが、今の会話中に凛は違和感が芽生え始めていた。
「わぁ、可愛い猫ちゃんですね。触ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。下顎の辺りを撫でると、とくに喜びますよ」
凛が時雨の肩に乗っている白猫のミールに視線を移すと、時雨は快く承諾する。
白猫のミールも満更ではない様子で抵抗する事もなく、フカフカな白毛が風に揺られながら小さく「ニャ~」と鳴いて見せる。
「では参りましょうか」
炎天下の暑さは身に堪えるので、時雨は凛を連れて女神の経営する喫茶店へと向かった。




