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第420話 チャンス到来

 とりあえず、時雨の想像していたような事態はないようなので、運転免許証をキャスティルから受け取る。


「あの……私、車の運転なんてやった事ないのですが」


 時雨は小さく手を挙げて、新たな心配事ができた事を告げる。


「別に技能テストはしない筈だ。証明写真を撮って教室で講習を受けるだけだから問題はない」


 キャスティルが簡単に説明してくれると、本人もあまり乗り気ではない様子だ。

 発端は今朝、時雨のスマホに掛かって来た一本の電話から始まったらしい。

 快眠していた時雨は勿論電話に気付かず、代わりにミールが電話に出てくれた。

 そして運転免許の更新を自分の代わりにやって欲しいとの事であった。


「本当は今週中に済ませる予定だったが、来週から仕事で忙しくなるから更新手続きへ行く暇もなくなるそうだ」


 よく見ると、免許証の有効期間はあと一か月を切っている。

 入れ替わる事案がなければ、今週中に免許更新へ問題なく予定だったが、時雨の姿で免許更新はできる筈もなく、時雨がミュースの姿で手続きを済ませるしかない。


「私が新しい免許を作製してあげるよと言ったら、断られたニャ~」


「出来の良い偽造免許証なんか所持してたら警察に捕まるだけだろうが」


 ミールは免許を作製しようと提案したらしいが、キャスティルの言う通り正規の手続きを踏んでいない免許証は偽造しているのと変わりない。

 そんな物を所持したまま警察に職質されたりしたら、時雨が最初に想像していた通りの展開になりそうだ。


「悪いが、あいつの代わりに講習を受けて来てくれ。護衛にこの白饅頭を就ける」


 キャスティルは白猫のミールを拾い上げて時雨の肩に乗せる。

 本当はキャスティルが護衛に回って務めたいところだが、彼女は外せない仕事があるようだ。


「分かりました。そういう事でしたら、頑張って挑戦して見ます」


 不安はあるが、世話になっているミュースのためにも時雨は了承する。

 キャスティルは財布から一万円札を時雨に渡すと、それで免許の更新費用と昼飯代に充ててくれと気前よく出してくれた。


「一国の軍隊や魔神の軍勢が攻めて来ようと、こいつが護衛に回れば問題ないだろう」


「全力で蹴散らすから安心するニャ~」


「程々に蹴散らせよ。お前が全力を出したら、地球どころか太陽系は間違いなく消滅するからな」


 頼もしい護衛だが、免許の更新へ行くだけなので、そんな危険なイベントが起こっていたら時雨の身が持ちそうもない。

 キャスティルとしてはここにミールを残して二人っきりになるのが面倒なので護衛と言う口実で厄介払いしたいだけかもしれない。


「さあ、出発するニャ~」


 時雨の肩で上機嫌な白猫のミールは既に行く気満々である。

 身支度を整えて、時雨はショルダーバッグを肩に下げながら日差しの強い外へ出かけて行った。

 免許の更新は幸いにもミュースが優良運転者である事から、最寄りの警察署で手続きできる。

 まさか、免許取得したばかりの柚子より先に免許更新の手続きを経験するとは夢にも思わなかった。


「警察署に動物の持ち込みはできないと思いますので、このショルダーバッグに少しの間ですが身を隠して下さい」


「了解ニャ。大人しく箱入り娘を演じてるニャ~」


 ミールが熱中症になるのを恐れた時雨は小型のクーラーボックスも検討したが、キャスティル曰く「太陽にぶち込んでも日焼けする程度だから問題ない」と適当にショルダーバッグへ詰め込んでも問題ないらしい。


「時雨君は優しいニャ~。でも、優しいだけじゃ女の子は満足しないと思うニャ」


「恋愛の指導(レクチャー)は間に合ってますよ」


「甘いお菓子をくれたら、もっとしてあげるニャ~」


 尻尾をフリフリさせながら、ミールは食卓からくすねた角砂糖を口にする。

 熱中症より糖尿病を心配してしまいそうだ。


「そんな事を言っていたら、早速チャンス到来ニャ」


 ミールは嬉しそうに前方を見据えると、白いワンピース姿の女性が目に入る。

 優雅な立ち振る舞いに色っぽさも兼ね備えた女性は時雨のよく知る人物であった。


「あら、こんにちは」


 微笑ましく挨拶を交わして来た女性は凛だ。

 時雨は思わずいつもの調子で凛先輩と口を滑らしてしまうところだった。

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