第408話 バレてたニャ
理恵と召集されたアメリカ側の二人はそのまま店を後にすると、厨房からキャスティルと白猫のミールが戻って来た。
「バレてたニャ」
白猫のミールは時雨の肩に乗りながら、ポツリと呟く。
「むしろ、何でバレないと思ったんだよ」
呆れた口でキャスティルが壁に背を向けていると、やはりバレてしまっていた。
「どの辺で気付いていたんだニャ?」
「書斎で見かけた時からだよ。猫のフリをしたところで、その強大な気配は隠しきれてねえよ」
最初は気まぐれでキャスティルを驚かすためだと思っていたらしく、面倒なのでスルーしていたらしい。
白猫がミールだと正体がバレてしまったが、ここにいる時雨の存在には気付いていない。
そう思っている時雨にキャスティルは思わぬ行動へ移す。
「お前もミュースじゃないのは分かっていた。まさか、入れ替わっていたとは想定外な結果だったがな」
キャスティルが時雨の胸を鷲掴みにして見せる。
普段、加奈や香に隙を突かれて背後から胸を揉まれる事はあったが、それとは比べ物にならないぐらいの衝撃が時雨の脳裏を刺激する。
「どんなに演技しようが、身体に染み付いた習慣って言うのは隠し切れないものだ。今日の昼食、食前で神に祈りを捧げる時雨の姿を見て違和感を覚えた。ミュースに至っては普通に飯を食い始めたからな」
キャスティルの指摘に時雨は甘い声を漏らしながら、不覚であったと反省する。
その後は何気ない二人の動作を観察しながら、時雨とミュースが入れ替わっていると判断したらしい。
「じゃあ、ここにいるミュースさんは時雨なのか……」
シェーナは信じられないと言わんばかりに、ミュースの姿をした時雨に目を見開いて驚いている。
それ以上に店主の女神は白猫の正体がミールだった事に驚愕を隠せないでいる。
「くっ……かくなる上は死んでお詫び申し上げます」
包丁を取り出し、自身の喉元を貫こうとする店主の女神。
創造神ミールとは知らずにスーパーで無礼を働いた彼女は絶望の淵にいる。
すぐにキャスティルが包丁を取り上げると、白猫のミールが彼女の頬にネコパンチを浴びせる。
「君には大事な仲介役の仕事があるのだから、それを放棄して勝手に死ぬのは駄目ニャ」
加減はしたのだろうが、ネコパンチの威力は時雨の想像しているものより反動が大きく店主の女神は宙を浮いて吹っ飛ばされた。
そして、心の支えであったミールの絵画がクッションとなって店主の女神はゆっくり起き上がる。
「この痛み……私はミール様の愛を肌で感じ取りました! 私のような不浄な女神にミール様は温かい手を差し伸べて下さり、喜びに震えております」
頬が赤く腫れた店主の女神は白猫のミールに畏まり、自害を思い止まらせた。
反省させるために注意を促したつもりだったが、予想以上に効き目があった。
キャスティルから「どうにかしろ」と言わんばかりにミールを睨んでいる。
「やれやれ……キャスティルやカフテラはドSな女神だけど、この子のようなドMな女神も困りものだニャ」
ノーマルな女神はいないのかと嘆くミールに、キャスティルは勝手にドS認定されて怒りを露にする。
「シェーナ君や時雨君もどちらかと言うと、女の子に振り回されるMっぽさがある感じニャ」
少なくともS側ではないのを自覚している時雨とシェーナだが、第三者の視点だとやはり二人はM側らしい。
「自覚がないようだから言っておくが、お前が一番のドSだからな」
「私はノーマルだニャ~」
「ノーマルな奴は人の顔にパイ投げするような事はしないからな!」
ミールの場合、悪戯好きで自由奔放な性格が起因していると時雨は思う。
ドSと聞いて一番しっくりするのはどちらかと言うと、ミールよりキャスティルの方だろう。
そんな事は本人の前で言える筈もなく、時雨とシェーナは顔を見合わせながら困惑していた。




