第404話 賑やかな食卓
皆の頑張った甲斐があって、夏休みの宿題は進捗した。
後は二学期が始まるまで、各々片付けておけと念押しして生徒達を家に帰した。
時雨は食器の後片付けをシェーナと分担していると、白猫のミールはリビングのソファーで身を丸くして休んでいる。
「やっぱり、食事は賑やかな方がいいですよね」
突然、シェーナはポツリと呟く。
「賑やか過ぎるのも考えものですけどね」
先程の昼食では香が苦手なピーマンをこっそり時雨の姿をしたミュースの取り皿に移していたりした。
勿論、ミュースはそれに気付いて好き嫌いをするのは良くないと口頭で注意すると、代わりにその分を人参と交換して手を打とうとしたりした。
結果的にそれは受け入れられなかったが、加奈が余計な入れ知恵をして口移ししたら食べられるかもと提案すると、香はその気になってしまった。
「それでピーマンを克服できるのでしたら……」
これにはミュースも困惑してしまい、後に引けない雰囲気になっていた。
キャスティルは興味なさそうに丼ぶりの白米を豪快に食していたし、ミールもご希望だった白米にハチミツが盛られたカオスな丼ぶりに舌鼓を打っていたので、誰も止められる者はいなかった。
「私も……ほうれん草が苦手だから、お姉ちゃんに食べさせて欲しいな」
優奈もどさくさに紛れて加奈に苦手なほうれん草のお浸しに目を移す。
「もう、しょうがないわね」
やれやれと言わんばかりに加奈も優奈の面倒をきっちり見ながら対応に当たる。
外野の理恵は面白そうに眺めて、シェーナは自身の料理をこんな風に食されるとは思ってもいなかったので複雑な心境だった。
「二人共、ちょっとこっちへ来い」
食器を片付け終えると同時に、キャスティルが書斎の部屋から時雨とシェーナを呼び出す。
少々、不機嫌な声に聞こえたので先程の昼食について小言を言われるのかもしれないと時雨は思う。
シェーナも同じ思いだったようで、二人は書斎へ足を伸ばすのが億劫であった。
「失礼します」
軽く扉をノックして書斎へ入室すると、キャスティルの第一声は想像していたものとは違っていた。
「今夜、合衆国側の連中と面会する。場所はこちら側が指定した喫茶店だから、今から段取りの準備も兼ねて移動するぞ」
キャスティルは用件を手短に伝えると、既に身支度を整えていた。
二人は了承すると、キャスティルの機嫌を損ねないためにも、そのまますぐに玄関先までやって来た。
白猫のミールもソファーでくつろいでいたが、二人の慌てている様子に気付くと時雨の肩に乗って見せた。
「妙な猫に好かれたな。私は動物の面倒が苦手だから、お前に任せるぞ」
キャスティルは白猫のミールをじっと睨むと、飼育係を時雨に一任された。




