第403話 初対面
昼食の準備が整うと同時にキャスティル達がリビングへとやって来た。
「もう、お腹ペコペコだよ」
お腹を空かせた香が卓に着くと、加奈と時雨の姿をしたミュースもそれに続く。
「ああ、さっきの呼び鈴はシェーナだったのか。やっぱりエプロン姿も似合ってるわねぇ」
「えっと……君とは初対面だったような?」
「ああ、そっか。人間の姿で会うのは初めてか。ダークエルフの加奈よ」
「えっ!? 君があの加奈なのか」
そういえば、シェーナは加奈の人間姿は初見だった。
ここ最近、ダークエルフで当たり前に現れるものだから、それが当たり前になりつつあった。
シェーナは驚いた様子で口を開けたまま、加奈をジロジロ見ていると、優奈が間に入ってシェーナを睨む。
「お姉ちゃんが可愛いからって、エッチな視線を送るのは止めて下さい」
「私はそんなつもりは……」
これにはシェーナも参ってしまい、誤解を解こうと弁明するが、優奈はまるで聞く耳を持たない。
どちらかと言うと、加奈の方がエプロン姿のシェーナにエッチな視線を送っていた方だ。
「嫉妬している優奈ちゃんも可愛いな」
「わっ、またですか。いい加減にして下さい」
「ふふっ、優奈ちゃんは加奈が好きなんだねぇ」
香は席を立って優奈の頭を撫でて見せる。
小柄な優奈を香はお構いなしに可愛がるが、本人はとても嫌がっている。
「うるせーぞ! お前等、さっさと席に着け。折角の飯が冷めちまう」
収拾がつかなくなりそうなところに、キャスティルが一喝する。
そんな時に白猫のミールが床から這い上がるようにして、キャスティルの肩に乗っかって見せる。
「わぁ! 可愛い猫ちゃんだ」
香が即座に反応すると、ミールは「ニャ~」と気の抜けた声で返事をする。
キャスティルは鬱陶しそうに白猫のミールを摘まんで引き離すと、今度は器用に香の肩へと移る。
「真っ白な毛並みで、つぶらな瞳がすっごくキュートだね」
香が褒めちぎると、ミールは嬉しそうに香の頬を小さな舌で舐める。
「くすぐったいよぉ。君は人間の言葉が分かるみたいだね」
すっかり香に懐いている白猫のミールは調子に乗って香の膝の上に乗って見せると、女子達の視線は白猫のミールに集まっている。
理恵や優奈も気持ちよさそうに白猫のミールを撫でている。
「ほら、時雨ちゃんも撫でて見なよ」
そんな中、時雨の姿をしたミュースだけは一歩引いて様子を見ていた。
「私は……遠慮しておきますわ」
白猫のミールを傍まで抱えて来る香にミュースは首を横に振って答える。
普通の猫なら迷わず撫でるところだが、目の前にいる白猫は創造神ミール。
神に祈りを捧げるミュースにとって、ミールは絶対的な存在。
とても畏れ多くてできないのだ。
「遠慮しておきますわって、時雨ちゃんからそんなお嬢様言葉が出るなんて何か変なの」
これは迂闊だったとミュースは自身の言葉遣いに対して反省する。
余計な疑惑を持たれるのはまずいと判断したミュースは咄嗟に口を開いてこの場を打開する。
「ほら、ご飯が冷めちゃうと美味しくなくなっちゃうし、怖い女神様もこちらを睨んでいるからね」
怖い女神様は勿論キャスティルを指しているのだが、彼女が睨んでいる相手は白猫のミールだ。
時雨もミュースに助け舟を出す形でフォローする。
「さあ、猫ちゃんの相手は後でゆっくりしましょう」
時雨は軽く手を叩いて皆に食事を促すと、素直に従って席へ着いてくれた。
料理に手を付け始めると、キャスティルは無言で時雨とミュースを交互に観察する。
「ふん……」
とくに何も言及する事なく、キャスティルは小さく鼻を鳴らした。




