第401話 救世主②
時雨はミュースと入れ替わっている事を伏せて、現在置かれている状況をシェーナに伝える。
「なるほど、この料理レシピは中々作り甲斐がありますね。材料は……何とかなると思います」
レシピを頭に叩き込んだシェーナはすぐに調理へ移る。
時雨も手伝おうと思ったが、正体がバレるリスクを考慮してやめておいた。
「すみません、今日は調子が悪いようで……」
「えっ、大丈夫ですか? そこのソファーで横になって下さい」
時雨は頭を抱えるような仕草をして体調不良を訴えると、シェーナは調理の手を止めて時雨の介抱へ回ろうとする。
回復の力を有するシェーナはソファーへ腰掛けた時雨に力を発現させようとした時、時雨は慌てて遮って見せる。
「ここ最近、仕事が立て続けにあったものですから睡眠が疎かになっていたのもあって疲れが溜まっているだけですよ」
それらしい理由を述べてシェーナを納得させる。
下手に回復を施されたら、仮病なのがバレてしまう可能性が高い。
嘘を重ねてしまうのは心苦しいが、ミュースの特別賞与と時雨と加奈の報酬のためだ。
時雨のせいでバレてしまったら、ミュースや加奈に顔向けできない思いがあるのだ。
「ここで少し休んでいれば大丈夫ですから、シェーナさんは調理を続けて下さい」
「わ……分かりました。女神の仕事が激務なのは重々承知していますので、どうかあまり無理をなさらないで下さい」
必死な時雨にシェーナは圧されて、回復の発現を断念する。
シェーナには後日、改めて別の機会に労いの場を設けて感謝しようと時雨は思う。
心遣いのある言葉を投げ掛けてシェーナが調理を再開すると、とりあえず危険が去ったのを確認して時雨は一安心する。
こんな調子が一週間も続くと考えたら、緊張の連続で参ってしまいそうな気がする。
「上手い具合に切り抜けられたニャ。この調子で一週間頑張ろうニャ」
白猫のミールは時雨の頬を小さな舌で舐めながら小声で褒めちぎる。
生暖かい舌の感触と、ほのかに牛乳の香りがする。
時雨がミールと戯れている姿をシェーナは遠目から目に入ると、「癒されるなぁ」と感慨深い気持ちになった。




