第4話 デートの約束
凛は会計を済ませてファミレスを出ると、時雨もそれに続いた。
「凛先輩、ごちそうさまでした」
「可愛い後輩のためなら、これぐらいお安い御用よ。それに私達は付き合っているんだしね」
時雨がお礼をすると、凛は隣に並んで腕を組む。
それを慌てて時雨が振り解くと、凛と距離を取ってしまう。
「ファミレスに入る前もそうでしたが、私とこんな事をしていたら、これまでの凛先輩が築き上げたイメージが崩れちゃいますよ」
「へぇ。私のイメージって、どんな感じなのかしら?」
凛は興味深そうに訊ねる。
ぱっとしない後輩の時雨と親密な仲であると噂されたら、凛に迷惑がかかって名声に傷を付けてしまうと恐れた。
あくまで自然に付き添う形を理想としているのだが、時雨は言葉を選んで答えた。
「文武両道、容姿端麗で女生徒が憧れる存在ですよ」
「それは時雨じゃなくて、他の女生徒達が評価しているものよ。時雨は私の事をどう思っているの?」
凛の言う通り、時雨か述べたのは女生徒達の噂を拾い集めて並べただけだ。
前世の彼女はお転婆で困らせる事もあったが、民から慕われる心優しい人物だった。
それは桐山凛に転生してからも同様で、女生徒達に慕われているのも、持ち合わせている器量が要因だろう。
時雨は本心を告げず、凛に背を向ける。
「……内緒です。本人の目の前で恥ずかしくて言えませんよ」
「あっ、ずるいわ!? そんなしおらしい感じで誤魔化すなんて、絶対に聞き出してやるんだから」
時雨の背中に凛が抱き付くと、頬を膨らませて身体を揺さぶってみせる。
本人は気付いていないだろうが、凛の胸が時雨の背中に当たって柔らかい感触が伝わる。
これには堪らず、時雨は目を閉じて一言。
「そういう子供っぽいところは正して下さい」
「ほほぉ、子供っぽいと思っていたのか。前世からの古い付き合いなんだし、時雨も先輩の私に子供みたいに甘えていいのよ?」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉があります。それに甘えたら……はねっ返りの先輩は図に乗ります!」
凛の言葉通りに実行したら、理性がどうにかなってしまいそうだと確信があった。
時雨は鞄を両手で持ち上げると、ファミレスで凛と雑談を交えて長居をしてしまったので、電車を乗り継いで帰らないと門限を過ぎてしまう。
「凛先輩、そろそろ帰らないといけない時間なのでここで失礼します」
「あら、もうそんな時間なのね。時雨は電車?」
「電車です。先輩もですか?」
「私はすぐそこのタワーマンションに住んでいるから、通学は歩きよ」
凛は駅とは逆の方向を指差すと、一際目立っているタワーマンションがあった。
前世は姫君で、現在はタワーマンションに暮らす富裕層とは羨ましい待遇だと時雨は密かに思う。
(これも徳を積んできた結果なのかな)
それなら時雨も凛に劣らず尽くしてきたつもりであるが、どういう基準で転生しているのか分からないので、運と片付けられても仕方がない。
「今日のところは解散にして、明日は学校も創立記念日で休日だから、二人でデートしましょう」
「デ……デートですか!?」
突然の提案に、時雨は声を荒げてしまった。
「うん、詳しくは後で時雨のスマホで連絡入れるわ。じゃあ、またね」
「あっ、ちょっと……」
ファミレスの雑談中に凛と連絡先を交換していた。
時雨の返答を待たずに、凛は微笑んで手を振ると、デートは決行する流れになった。