第399話 意地悪な白猫
行儀良く時雨の肩に乗っている白猫のミールは尻尾を振りながら上機嫌でいる。
「ところで、ミュースの身体は慣れてきたかニャ?」
「動き回るのには慣れましたが、修道服で出歩くのは大変ですね。ミールさんはすっかり猫が板についている感じですね」
「ニャハハ、今度機会があったら時雨君にも猫になれる魔法をかけてあげるニャ」
白猫のミールを見ていると、猫になれたら自由気ままな生活ができるかもしれないなと時雨は思う。
それより、今はミュースの身体で一週間を無事に過ごせるかが課題だ。
懸念しているのは二つある。
一つはミールがサポートしてくれるとはいえ、女神の業務内容をこなせるのか。
もう一つは私生活の面で色々と心配される点があることだ。
「私が傍にいるから心配ないニャ。ヤバイ案件の仕事は全部キャスティルに回しても平気だから、気楽にやろうニャ」
一応、形式的にキャスティルはミュースの部下になっていると話を聞いていたが、その実感は湧かないものだ。
問題を起こして降格処分になったとはいえ、スノーや喫茶店の女神は彼女を慕っている。
精一杯頑張ると啖呵を切ってしまった都合上、今更泣き言は言えない。
「ふふっ、時雨君のプライベートな部分は邪魔しないから安心していいニャ」
「私のプライベートは別に……覗かれてやましい事は何もありませんよ」
含みのあるような言い回しで、ミールは時雨の心を見透かしているようだ。
「ふーん、それは創造神の前でちゃんと誓えるかニャ?」
「それは……そう言われると、不可抗力でトラブルがあるかもしれませんから百%の自信がありません」
時雨の意思とは無関係に望んでいない未来が待ち受けている可能性は十分にあるが、自ら進んでこの身体の持ち主であるミュースを裏切るような真似は騎士として、人としてする訳にはいかない。
「相変わらず堅いニャ~。そんな時雨君の心を少し和らげてあげるニャ」
白猫のミールはやれやれと言わんばかりに、時雨の肩から器用に修道服の下を潜って胸元へ移動して見せる。
ゴソゴソと動き回るせいで毛皮の質感が時雨の肌に直で伝わると、胸元の当たりがとてもくすぐったい。
そして胸元から顔をひょっこり見せた白猫のミールは快適そうな顔でご満悦だ。
「こっちはマッサージチェアに乗っているようで心地良いニャ」
「そこは……くすぐったいです」
「んー、よく聞こえないニャ~」
本当は聞こえている筈なのだが、素直になれない時雨にミールはつい意地悪をしてしまう。
(駄目だ……動けない)
どうやら修道服の下から勢いよく尻尾を動かしているようで、時雨はそれに敏感に反応してしまい身動きがとれない。
完全に主導権をミールに握られると、時雨は両手を上げて降参してしまう。
「参りました。プライベートな部分を邪魔しないミールさんに感謝しますから……」
「ふふっ、少しは素直になってくれてよかったニャ」
白猫のミールは時雨の言葉に満足して、すぐに時雨の肩に乗り戻って見せた。




