第398話 理由
「この痛み……そして、このつぶらな瞳は間違いない!」
確信に満ちた顔で喫茶店の女神がミールの瞳を覗き込む。
さすがにバレたかと時雨は観念して白状しようとした時だ。
「キャスティル様だったのですね! 猫に扮して敵を欺こうと言う完璧な作戦、感服致しました」
喫茶店の女神は白猫のミールを手放して、深々と敬礼をして見せる。
白猫のミールは時雨の肩に乗って、軽く頷きながら「ニャ~」と声を上げる。
一触即発だった空気は一転して、幸いにも周囲の目には留まらなかったので大事には至らなかった。
「それでは失礼します」
買い物袋に食料を提げて、喫茶店の女神は時雨達の仕事の邪魔にならないようにその場を去って行った。
時雨は笑顔で手を振って見送ると、喫茶店の女神の姿が見えなくなったのを確認して安堵する。
一歩間違えれば、大惨事の事態に発展していてもおかしくなかった。
白猫のミールをキャスティルと勘違いしたおかげだろうが、ネコパンチのダメージと瞳を見ただけで判断したのはそれだけキャスティルにダメージを負うような現場に遭遇しているのかもしれない。
(寿命が五年ぐらい縮んだよ……)
冷房の効いた店内にいた筈なのに、時雨は全身から冷や汗を掻いていた。
損な役回りは前世から何回も経験しているが、女神絡みとなると反動が凄まじい気がする。
今回はミールがロケットを払い除けたのが原因であるが、どうしてあんな行動に出たのかだろうか。
「ミールさん、どうしてあんな真似をなさったのですか?」
「私はあんなケバくないニャ~。もっと可愛らしく描いて欲しいと訴えただけニャ」
てっきり、想像で自身を描いた物を持ち歩くなんて不遜な態度が許せないと女神らしい理由かと思ったが、尋ねて得た回答はとても女の子らしいものであった。
「でも、威厳があって神々しかったですよ」
「私はいつでも神々しいニャ。その辺りを時雨君達は理解してないようだニャ」
この場合、神々しい=可愛らしいと解釈した方がいいのかもしれない。
「これは勉強不足で申し訳ありません」
「ニャハハ。そんな事より、早く帰ってお昼ご飯を作ろうニャ。私は白いお米にハチミツをたっぷりかけて食べたいニャ」
「トーストではなく、白いお米にですか?」
「当たり前ニャ。甘さ倍増で結構美味いニャ~」
白いお米にマヨネーズは割と聞いたりするが、ハチミツは初めて聞くケースだ。
想像するだけで口の中が甘ったるくなりそうな感じがして、糖質量等は大丈夫なのかと健康面で心配になってしまう。
「時雨君も試してみるといいニャ。絶対お勧めニャ!」
「私は……遠慮しておきます」
創造神のお勧めを断る時雨は買い物袋を提げて店内を後にしようとする。
マンションへ戻る間、白猫のミールは時雨の肩に乗りながら耳元でハチミツを推していたのだった。




