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第397話 シスターと白猫

「時雨さんには私のようなおばさんみたいな身体は窮屈かと思いますが、お互いに一週間頑張りましょう」


「おばさんだなんてとんでもありませんよ。私の方こそ、気を引き締めて務めさせて頂きます」


 時雨とミュースはそんなやり取りをすると、固い握手を交わす。


「私がサポートするんだから、絶対バレないわよ」


 間に加奈が入って大口を叩くが、かえってそれが不安になってしまう。

 以前にも、優奈が魔法具を使って入れ替わった経験がある。

 その時は簡単に凛に見破られてしまったが、今回は果たしてどうなるか。


「ほらほら、部屋に戻って宿題やろっか」


 加奈がミュースの背中を押して、キャスティルのいる勉強部屋へ戻った。

 時雨は二人を見送ると、ミュースの代わりにスーパーへ買い物に出かける。

 元の身体と比べて、視界はだいぶ違って見えるものだ。

 身長は高い上にスタイルも抜群。

 書斎にあった鏡台で映っている姿は美人の女性。

 夏の暑い時期に黒の修道服は熱を吸収しやすいので、動き回るには結構堪える。


「んん、肩の上から眺める景色は楽チンで良い気分ニャ」


 すっかり時雨の左肩が指定席になった白猫のミールは短く欠伸をしながらくつろいでいる。

 修道服の美女と白猫のコンビは人目に付いて、すれ違う人々の視線が集中する。


「スーパーで買い物をするなら、甘いお菓子を大量に買うニャ」


「必要な食材を買うのが目的ですから、お菓子は程々ですよ」


 ミュースから昼飯を作るために必要な食材をメモされている。

 後でこっそり料理のレシピを台所に置いておくと伝えられているので、レシピに沿って料理を作る予定だ。

 駅前のスーパーまで移動すると、蒸し暑かった外の空気とは一変して店内は涼しい風が行き渡っている。


(ふう……生き返る)


 快適な空間に汗が引いてきて、時雨は思わず修道服をバサバサさせて風通しを良くしようと羽を伸ばしてしまう。

 気慣れない修道服に身を包んでいる時雨は気付かなかったが、その姿は他者の目からはしたない様子に映っている。

 そして白猫のミールを肩に乗せているので、余計に目立ってしまっている。

 置かれている立場にようやく気付いた時雨は恥ずかしさのあまり顔を赤く染めて、そそくさと買い物カゴを手に取ってメモされた食材の調達に向かう。


「あっちのお菓子売り場へも行って欲しいニャ」


 肩の上で小さな腕を伸ばしながら指示をするミールに時雨は仕方なく足を運ぶ。


「あのクッキーと飴を食べたいニャ」


「甘い物ばかりですと、虫歯になりますよ」


「ニャハハ、ちゃんと歯磨きすれば大丈夫ニャ」


 豪語するミールは目当てのお菓子がカゴに入ると、勢いよく尻尾を振りながら喜んでいる。

 その尻尾が時雨の顔面に時折ぶつかって柔らかい感触が伝わる。


「気を付けないと、太っちゃいますよ。ミール様はハチミツとか好物なので心配ですよ」


「体重なんか気にしないからOKニャ」


 大抵の女性はこれでぐうの音も出ない筈なのだが、創造神は当て嵌まらないらしい。

 時雨も体質的にあまり体重は気にしない方ではあるが、ミールを見ていると加奈や香の気持ちが少し理解できたような気がした。

 メモにある食材とミールのお菓子選びを終えると、速やかにレジへ並ぶ。


「おや? こんなところで奇遇ですね」


 時雨の後ろに並んでいる客が、ふと時雨に声を掛ける。

 聞き覚えのある声に時雨は後ろを振り返ると、そこにいたのは昨日訪れた喫茶店を営む女神であった。


「どうも……こんにちは」


 正直、この女神は怖くて苦手だ。

 創造神ミールを侮辱するような発言をすれば、問答無用で攻撃のスイッチが入る。

 ミール以外でそのスイッチが突然入るかもしれないと時雨は警戒しながら挨拶を交わす。


「キャスティル様もこちらにいらっしゃるのですか?」


「いえ、マンションで皆さんの勉強を見ていますよ」


「そうですか、それは残念ですね」


 喫茶店の女神は落胆の色を隠せないでいる。


(慕われているんだなぁ……)


 キャスティルのような姉御肌の女神は海の家で出会ったスノーもそうだが、一部の女神から人望が厚い印象だ。


「そのペンダント、とても可愛らしいですね」


「こちらはロケットですね。一つ良い物を見せて差し上げましょう」


 喫茶店の女神は首に下げているハート型のロケットを得意気になって時雨に見せ付ける。


「どうです? 私にはこうしてミール様を傍で感じ取る事ができるのです」


 ロケットには一枚の小さな絵が組み込まれている。

 そこには神々しい女性の似顔絵が映し出されている。

 ミール本人は時雨の肩に乗っているのだが、ミールも顔を覗き込ませてロケットの中身を確認する。

 すると、ミールはとんでもない行動に移す。


「ニャ~」


 あろうことか、ロケットを払い除けてしまったのだ。


(あっ……まずい)


 この展開は非常によろしくないと時雨の勘が告げている。


「その畜生は貴女のペットですか?」


 案の定、糸目が完全に見開いて怒りが満ちている。

 こんな人目のある場所で暴れられたら大惨事になってしまう。


「お……落ち着いて話し合いましょう」


「問答無用!」


 喫茶店の女神は時雨の肩に乗っていた白猫のミールを片手で鷲掴みにする。

 そのまま首を絞め殺す勢いだったが、ミールは軽くネコパンチを繰り出すと、彼女の顎に当たって身体を宙に浮かせてしまった。

 上手い具合に床へ着地すると、一発のネコパンチで喫茶店の女神は何かを感じ取ったようで、白猫のミールを抱き上げて見せた。

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