第396話 褒美
「お前等、こんなところで何をしている?」
「これはですね……」
ミュースが事情を説明しようとすると、時雨の肩に乗っているミールが猫の鳴き声を上げてキャスティルの注意を逸らす。
「この猫は何だ? どこから入り込んで来やがった」
キャスティルは白猫のミールを無造作に持ち上げて顔を覗き込む。
「ニャ~」
「首輪をしていないところを見ると、野良猫か? それにしては毛並が汚れていないし、憎たらしい顔をしていやがる」
どうやら、白猫がミールだと気付いていないらしい。
キャスティルはそっと白猫のミールを地面に下ろすと、ミールはそのまま時雨の肩に乗って見せる。
「どうやら、お前の事が気に入ったらしいな。その猫はお前に任せて、すっかり元気そうな時雨と加奈はさっさと部屋に戻るぞ」
キャスティルは書斎から出て行くと、白猫について深く追求する事はなかった。
「バレなくてよかったニャ。一週間、キャスティルや他の人に時雨君とミュースが入れ替わった事に気付かなかったら、私から褒美を用意するニャ」
「えっ!? マジですか」
褒美と聞いて、いち早く反応したのは加奈だ。
入れ替わっている期間中、時雨には白猫のミール、ミュースには加奈のサポートに入って周囲に二人が入れ替わっている事を悟られないようにするのが今回の目的だとミールは語る。
目的が達成された場合、ミュースには特別賞与が約束されて時雨と加奈には褒美として何でも一つだけ願いを叶えてくれるそうだ。
「何でもいいんですか?」
「私の力が及ぶ範囲までなら、いいニャ」
創造神の力が及ぶ範囲がどれくらいまでなのか分からないが、試しに加奈は冗談で一つ願いを述べて見た。
「じゃあ、魔剣レーヴァテインとか貰えたりできますか?」
さらっと魔剣を要求する加奈に対して、時雨は半分呆れつつも魔剣と言う言葉に興味があった。そんな代物は神話や創作ファンタジーに登場するフィクションだと思っているのだが、前世が騎士であった時雨の頭の片隅に期待も膨らんでいる。
「OKニャ。成功したらプレゼントするニャ」
あっさりOKが出た。
(えっ? 魔剣だよ……)
てっきり断られるか魔剣以外で妥協点を探るものかと思った。
冗談で述べたつもりが現実になりそうなので、これには加奈も困惑してしまう。
時雨は無礼を覚悟で再確認の意味でミールに尋ねる。
「魔剣ですよ? そんな代物を用意できるんですか?」
「ふふっ、私は創造神ニャ。それぐらいは朝飯前だけど、時雨君達の前世に係わる願いとかは制限があるニャ」
例えば、前世の世界で死亡する前日まで時間を遡って人生をやり直したりする事はできないようだ。
SF等で聞かれるタイムパラドックスを引き起こすからだとミールはその理由を語ってくれた。
「なるほど、分かりました」
「理解してくれて助かるニャ。加奈君は魔剣で、時雨君も魔剣にするかニャ?」
「それはやめておきます」
時雨は一応納得する。
ミールが褒美の確認をすると、二人は魔剣を断って褒美の内容を白紙に戻した。




