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第393話 白猫

「感情を隠さなければいけない場面もあると思いますが、友人関係や恋愛に関して不完全燃焼で気持ちをぶつけられなかったら、きっと後悔しますよ」


 言いたい事は何となく理解できる。

 昔、些細な事で加奈と喧嘩した時に謝るきっかけは何度もあったが、なかなか仲直りできない時期があった。

 頑固な性格が災いして、時雨は自分から歩み寄って謝る事は出来なかった。

 悶々とした日々が続いたある日の下校途中に加奈が時雨の背後に回って胸を揉んで来たのだ。

 皮肉な事に仲直りしたきっかけは先程の加奈が述べたような実例であり、彼女の悪戯を起点にいつの間にか二人の関係は元通りに修復された。


「それはミュースさんの実体験から導き出したものですか?」


「……そうですね。私と同じ轍を踏まないよう、充実した人生を送ってくださいな」


 加奈が興味本位で尋ねると、ミュースはゆっくり答えて見せた。

 どこか影のある儚げな雰囲気がある。

 彼女のような聡明な女性は人間関係を上手く構築できそうなものであるが、それ以上聞き出す勇気はなかった。


「おっと、少々立ち話が長くなってしまいましたね。私は買い物へ行ってきますので、お昼は楽しみにしていて下さい」


 ミュースは玄関扉を開けて、買い物へ出かけようとする。

 時雨と加奈は玄関先でミュースを見送ろうとすると、その先に一匹の白猫がミュースの行く手を阻むように行儀良く鎮座していた。

 マンションの住人が飼っている猫かなと思ったが、首輪をしていないところを見ると野良猫の可能性がある。

 毛並みの良い白猫は時雨達と目が合うと、スクっと立ち上がってそのまま玄関先を飛び越えて部屋に入って来た。


「あっ! こら、待ちなさい」


 ミュースが慌てて白猫を追いかけると、白猫は扉が半開きになっていた誰もいない書斎へ足を踏み入れる。


(まずいぞ……)


 好奇心旺盛な野良猫が悪戯して暴れたりしたら、書斎の主であるキャスティルの怒りに満ちた顔が目に浮かぶ。

 時雨と加奈も後に続くと、ミュースと共に逃げ場のない白猫を捕まえるために書斎へ雪崩れ込む。


「やあ、お揃いのようだね」


 白猫を追いかけていた筈が、肝心の白猫は何処にも見当たらない。

 それどころか、時雨達を歓迎する声と共に書斎の椅子でゆったり座っている全裸の女性がいるではないか。


「ミ……ミール様!」


 予期せぬ人物と対面したミュースは何で全裸何だろうと言う疑問は捨てて、女性の名を告げて畏まる。

 全裸の女性の正体は創造神ミール。

 相変わらず、神出鬼没な登場の仕方だ。


「ミール様とは存じ上げず、失礼致しました」


「別に気にする必要はないよ。それより猫に化けて見たけど、案外分からないものだろう?」


「はい、完全に分かりませんでした」


 白猫に化けていたミールは得意気に語ると、ミュースは同調するように答える。

 そしてミールの視線は時雨と加奈に移り、笑顔を振りまいて二人に感想を迫る。


「時雨君や加奈君は私の変身を楽しんでもらえたかな?」


「いや、小動物にも変身できるなんて凄いですね。完全に騙されましたよ」


「ふふん、変身した甲斐があるってものだね」


 加奈はミールの完璧な変身魔法に圧倒されてしまうと、得意気だったミールはドヤ顔を披露する。

 時雨に至っては白猫から全裸の女神に差し変わって脳内の処理が追いついていない。


「時雨さんは可愛い白猫からミール様の美しい姿に当てられたのですよ!」


 時雨の性格を見抜いて代わりに適切なフォローするミュースだが、ミールには全てお見通しのようだ。


「ふふっ、時雨君は猫の変身よりこっちの姿の方が興味津々かな?」


 ミールは椅子から立ち上がると、そのまま時雨の腕に抱き付いて反応を楽しもうとしている。

 その様子は純真な女神とは違って、まるで誘惑する小悪魔みたいだ。

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