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第391話 座り方

 時雨が見守る中で加奈は壁に寄り掛かると、足をブラブラさせて解放感に浸る。


「助かったわ。両脚の感覚がなくなりかけていたからね」


「ああ、足が痺れていたのね」


 トイレを我慢していたかと思っていたのだが、どうやらその前にトイレで退出した時も足が痺れたのが原因だった。


「それなら、正座を止めるなり少し姿勢を崩したりして楽になればよかったのに」


「そうしたかったのは山々だったけど、優奈がいる手前でできなかったのよ」


 加奈は足を揉み解しながら、その理由を淡々と述べてくれた。

 元々、エルフ族は種族間の繋がりを重きに置く傾向にあるので、とくに家族間の繋がりは時雨が想像している以上に結束力は高い。

 優奈の場合、その習性は異世界転生した現在でも色濃く継承して残っており、優奈にとって加奈は憧れの存在で大切な肉親であるのだ。


(なるほどね)


 時雨は先程加奈の事をチラ見していた優奈の顔を思い出す。

 妹の前で無様な姿をさらさないように、加奈なりに努力していたと言う訳だ。


「良いお姉ちゃんを演じるのもいいけど、程々にしないと身が持たないよ」


「優奈には品行方正、才色兼備のお姉ちゃんで通しているからね。正座で足が痺れたなんて格好悪い姿は見せられないよ」


「ええっ……」


 加奈には悪いが、その設定には無理があると時雨は呆れてしまう。

 育ちの良いお嬢様のようなステータスは時雨が思い付く限りで凛が相応しい。


「あっ、座り方で一つ気になる事があるんだけど、時雨ってどんな座り方していたの?」


「どんなって……普通に胡坐だよ」


 加奈が話題を変えて時雨の座り方について尋ねると、時雨はその場で胡坐をかいて実演して見せる。

 さすがに通学で制服を着用している時はスカートを意識して座り方には細心の注意を払っている。

 休日で一人の時や人の目を気にしない場面では今のような胡坐や体育座りがする事が多い。

 そういう点では時雨も品行方正に欠けていると言われても仕方がないので、あまり加奈をどうこう言える立場ではない。


「時雨は前世が男だったからねぇ。こんな風に女の子座りとかは進んでやらないか」


 加奈は膝から下を左右に広げて、お尻を床につける加奈は女の子座りを実演して見せる。

 普段はお転婆な彼女でも、不思議と一気に女子力が高まったような雰囲気をまとっている。


「その座り方は恥ずかしいよ」


「何言ってんのよ。時雨は女の子なんだから、別に違和感ないわよ。学校の制服でスカートを履いてるんだから、それに比べたら全然難易度は易しいわ」


 たしかに加奈の言う通りなのだが、どうしても抵抗感が拭えない。

 

「ああ! じれったいわね。私が座り方を伝授してあげるわ」


「別に胡坐のままでいいよ。今まで困った事はないし……」


「ダメ。時雨は可愛いんだから絶対こっちの方が見栄えがするわ」


 加奈は胡坐をかいていた時雨を問答無用で指導し始める。

 断りの文句を並べたが、結局加奈に押される形となった。


(これは……)


 加奈を見本に女の子座りに挑戦して見ると、すんなり女の子座りができた。

 骨盤の開き方が男女で違うのだろう。

 前世で男だった時には到底できなかった座り方だ。


「やっぱり絵になるわねぇ。どこか痛みとかはない?」


「とくにないよ。胡坐より少し楽かも」


「よかった。想像していたより、時雨は体が柔らかいようね」


 慣れない座り方なので、痛みを伴うと覚悟していたが、問題はなさそうだ。

 冷たい廊下のフローリング上に座っているので、長時間座るなら柔らかいクッションを敷けばいいだろう。

 すると、リビングからエプロン姿から修道服姿でミュースが手提げポーチを持参して現れた。


「あら、どうしましたか?」


 二人揃って廊下で女の子座りをしている姿を目にしたミュースには奇妙な光景に映っているのではないだろうか。

 二人は慌ててその場から立ち上がろうとすると、ミュースは一つの仮説に行き着く。


「キャスティルの仕業ですね。大方、廊下に立ってろと怒鳴られたってところですかね」


「いえ、それは違いますよ」


 時雨は必死に否定する。

 地味にショックなのはミュースにとって時雨や加奈は廊下に立たされるような問題児なのかと言う点だ。

 誤解を解くためにも、時雨はミュースにこうなった経緯を説明すると、聞き終えたミュースは思わず可笑しくなって笑みを浮かべた。

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