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第390話 切羽詰まる

 しばらく宿題を片付けるために時雨は無造作にペン回しをしながら睨めっこしている。


(あっ……)


 手元が狂ってペンを床に落としてしまうと、時雨はすぐに拾い上げて集中力に欠けていると実感してしまう。

 周囲を見渡すと、香はキャスティルに分からない問題を教わりながら筆を走らせている。

 優奈も時々視線を加奈に移して見惚れながら受験勉強に励んでいる。

 そんな時雨の視線に気付いたのか、優奈は軽く咳払いをして、にやけていた顔を引き締める。

 理恵に至っては既に宿題を終わらせているようで、読書に浸っている。


「何か分からない問題でもあるのかい?」


 理恵は本を閉じて、時雨に向かって小声で話しかけて来た。


「あっ、えっと……ここの問題で行き詰っている感じかな」


「どれどれ、お姉さんが見て上げよう」


 別に教えてもらおうとかそんなつもりはなかったのだが、理恵はお構いなしに時雨の傍へ寄って見せる。

 丁寧な解説を交えながら、時雨に分かり易く問題を解かせて理解を深めようとする。


「後はこの公式に当てはめればOKよ」


「ありがとう。おかげで疑問が解消できたよ」


「ふふっ、時雨がその気なら女の子を悦ばせるテクニックも伝授してあげてもよろしくてよ?」


「それは間に合ってます」


 理恵に感謝を述べながらも、時雨は丁重に断りを入れる。

 頬を膨らませて不満そうな顔をする理恵だが、今度は標的を優奈に絞って席を立つ。

 明らかに絡まれた事で嫌悪感が顔に出る優奈を理恵は無視しながら、自身のペースに引き込んで主導権を握ろうとする。


(やれやれ……)


 そんな理恵にキャスティルは「うるせぇ!」と一喝して雷が落ちる。

 時雨も雷に巻き込まれないように宿題へ集中を向けると、前方の加奈から先程のようにノートの切れ端を丸めた物が投げ込まれた。

 またかと言う気持ちが先に湧いて、とりあえず何が書かれているか確かめる。


『2、3、5、7、11……』


 数字が延々と書かれている。

 何かの暗号かなと思ったが、並べられている数字をよく見ると素数であるのに気付いた。

 またトイレに行きたくなって素数でも数えて気を紛らわそうとしたのだろうか。

 その証拠に、正座した両脚を小刻みに動かして限界が近くなりつつあるような感じだ。

 そして、もう一枚ノートの切れ端が投げ込まれると――。


『アカン』


 普段は関西弁を喋らない加奈が、この一言で切羽詰まっているのは十分に伝わった。

 先程トイレへ行ったばかりの加奈をキャスティルが素直に通すとは限らないので、ここは時雨が一芝居を打って加奈の救出を試みる。


「すみません、気分が悪いのでトイレへ行ってもいいですか?」


「具合が悪いのなら無理せずに隣の部屋で休め」


「ありがとうございます」


 キャスティルの許可が下りると、時雨は畳み掛けるように加奈へお願いをする。


「加奈、悪いんだけど少し手を貸してもらってもいいかな?」


「ええ……いいわよ」


 加奈は快く承諾すると、身体のバランスを整えながらゆっくり立ち上がろうとする。


「おいおい、大丈夫か?」


 見兼ねたキャスティルが加奈に駆け寄って手を差し伸べようとすると、不意に加奈の机にあったノートの切れ端の存在に気付いた。

 不審に思ったキャスティルは視線を時雨の机に向けると、加奈に投げ込まれたノートの切れ端を手に取って大体の経緯を察した。


「さっさと花を摘んで来い。それと49は素数じゃねえよ」


 キャスティルは時雨と加奈を退出させると、それ以上何も言わずに二人を見送った。

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