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第387話 長耳を噛まれる

 しばらくすると、加奈と優奈が揃って散歩から戻って来た。

 優奈も手鏡を使用したらしく、前世のエルフ姿であった。

 二人は周囲にエルフ族だと悟られないように帽子を被って長耳を隠していた。


「エルフの優奈ちゃんもやっぱり可愛いなぁ」


「ちょっ……離れて下さい!」


 香は躊躇いもなく優奈に抱き付いて見せた。

 たしかに人間時と比べて身体は大人びているが、顔付きはどこか幼さが残っている。


「ふふっ、怒った顔もキュートでいいね」


 香はそのまま頬擦りを始めると、優奈はすっかり彼女のペースに巻き込まれてしまう。

 そんな二人を無視して通り過ぎる加奈は沈黙を保ったまま、部屋へ戻って行く。


(どうしたんだろう?)


 いつもの加奈なら、絶対に自ら絡んでいくスタイルの筈だ。

 気のせいか、少々元気がない様子でもあった。

 早朝から優奈と散歩に出かけたので、まだ眠気があって本調子ではなかったのかもしれない。


「朝食が出来上がりましたよ」


 リビングからミュースの声が聞こえる。

 どうやら、朝食の準備ができたようだ。

 それに釣られて書斎から理恵とキャスティルが姿を現すと、皆はリビングに集まって食卓を囲い始める。


「加奈はどうした? まだ寝ているのか?」


「先程、散歩から戻って部屋に入ったままですが、私見てきますね」


 こういう場にはいち早く姿を見せるのに、姿が見えない事にキャスティルは問いかけると、時雨は席を立って様子を見に窺う。


「私も一緒に参りますよ」


 ミュースがエプロンを畳んで時雨の後を追う。

 二人は部屋の前までやって来て、ノックをして入室する。

 そこには布団に潜って長耳を覗かせている加奈の姿があった。


「やっぱり寝てたのか。加奈、朝食の準備ができたよ」


 予想通りの展開だったので、時雨は布団を揺すって加奈を起こそうとするが、なかなか布団から出てこない。


「あっ、ちょっと待って下さい」


 ミュースが時雨を制止すると、加奈の長耳を凝視してある事に気付く。


「加奈さんの長耳ですが、少し赤く腫れていますね」


 ミュースの指摘通り、たしかに加奈の長耳は赤く腫れている箇所がある。

 もしかしたら、これが原因で寝込んでいるのかもしれない。


「まさか……何か病気に罹っているのですか?」


 長耳の赤く腫れた原因が何なのか、エルフ族の身体について詳しくない時雨は穏やかではない。

 いつもはあんなに元気な加奈が伏せっているのだから、尋常でない事態に思えた。

 救急車を呼んで病院に診てもらおうと考えたが、今の加奈はダークエルフ。

 エルフ族が世間に知られて騒ぎになるのは目に見えている。

 そんな時雨を余所にミュースは加奈の長耳を調べていると、一つの結論に達した。


「これは噛まれた痕ですね。多分、エルフ族のウィークポイントである長耳を誰かが噛んだのかもしれません」


「では……病気とかではないのですね」


「ええ、長耳を噛まれて一時的に力が抜けているだけですね」


 深刻な病気の類でなかったので、時雨はひとまず安心する。


(一体、誰がこんな事を……)


 時雨が腕を組んで考え込むと、加奈の長耳を噛む機会があったのは散歩に出かけた優奈ぐらいだ。


「時雨さん、ミュースさん。お姉ちゃんはお疲れのようなので私が診ていますから、先に朝食を召し上がっていて下さい」


 時雨とミュースの背後から優奈の声がすると、そのまま加奈の布団の傍によって看病を申し出る。

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