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第385話 探求心③

 興奮と緊張が入り交じった時間を過ごした時雨は薄暗い廊下の先にある台所を目指していた。


(少し喉が渇いたな……)


 理恵にからかわれたおかげで、すっかり眠気は吹っ飛んでしまった。

 水でも飲んで心を落ち着かせようと、乱れた着衣を整えながらリビングを経由して台所の前までやって来た。


(先客がいるみたいだ)


 リビングは煌々と明かりが点いており、台所から人の気配がする。

 香と加奈のどちらかが時雨と同様に喉が渇いて台所を物色しているものと思ったが、その正体は声を聞いて判別できた。


「まだ寝てなかったのか」


 台所からひょっこり現れたのはガウン姿のキャスティルだ。

 彼女から、ほんのりシャンプーの匂いが漂うと湯上がり直後だったのが窺えた。


「少し喉が渇いて水でも飲もうかと……」


「冷蔵庫に色々と飲料水が揃ってある。飲みたい物があったら、そのまま適当に持って行っていいぞ」


「ありがとうございます」


「ただし、アルコール類は駄目だからな。教師が生徒に酒を勧めたと知られたら面倒だからな」


 教師の立場を気にするキャスティルは時雨に忠告すると、リビングのソファーに腰かけてくつろぎ始める。

 その姿はまるで会社の激務から解放されて帰宅したOLみたいに見えた。


「私達のために貴重な時間を費やして申し訳ありません」


 時雨は台所へ向かわず足を止めてキャスティルに頭を下げる。


「仕事の一環だからな。別に気にする必要もねえよ」


 キャスティルは面倒臭そうに酒のボトルを開けながら適当にあしらう。

 ぶっきら棒な彼女はいつもの事である。

 それでも、時雨達のために尽くしてくれているキャスティルには感謝している。


「……少しそこに座れ」


 キャスティルは時雨に対面のソファーに座るように促すと、時雨は無言で彼女の言葉に従う。

 先程の理恵とは系統の異なる緊張感と圧迫感が時雨の肩に降り掛かる。


「謝る立場にあるのはこっちだ。元々の原因は前任者だったペトラって女神が発端の始まりだった。当初はペトラ一人で完遂できるレベルの話だったが、この世界のアメリカや時雨達の存在が判明してから事態は急変した」


 最初に異世界転生の事例が判明したのはシェーナとその数名の同級生。

 現在、キャスティルやミュースのように派遣された女神の他にシェーナ達にはペトラと言う女神が派遣されていた。

 しばらくは何事もなく穏やかな時間が流れていたが、やがてシェーナのいた異世界で暗躍していた者達がシェーナ達やアメリカを巻き込んで、その爪痕は今も色濃く残っているらしい。


「廃病院の地下にあった転移装置もそうだ。我々はアメリカと協力し、暗躍者達の残した遺物の回収と残党を追っている。アメリカは仲介役として時雨と一緒の同級生である理恵を選んだようだがな」


 キャスティルはボトルの酒を飲み干しながら、ちらっと廊下へ視線を移す。

 そこには頭を掻きながら、バツが悪そうな顔の理恵がいた。


「正確には仲介役と研究のために時雨達の調査をするためですけどね」


「時雨達の研究や調査は自由にやってもらって構わないが、実害が及ぶなら容赦しねえからな」


「分かってますよ。私としても時雨達の他に女神様についても詳しく知りたいところ。どうです? 今夜は私と一緒にベッドの上で過ごしてみませんか?」


「ふん、生憎だが私には心に決めた先客がいる。他を当たれ」


「それって、あのジャージを着こんだ創造神様ですかねぇ」


「……あんなクソ女神とベッドの上で寝るくらいなら、加奈と一緒に寝る方がマシだ」


 キャスティルは理恵の誘いを断ると、嫌悪感を隠さずに表面化させてしまう。

 彼女にとって悪戯好きな創造神よりダークエルフの方を選択するのを見ると、ミールとの関係性がより鮮明に浮き彫りになったような気がした。

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