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第379話 プール④

 これには時雨も戸惑いと驚きが交錯して、どのような反応を示していいか分からないでいた。

 たしか、前回面会したカフラートは第五セクター主任研究員。

 カフラートと同等の立場の人間なら、それなりに立場のある人間。

 それが時雨達と同じ高校に通っているのは俄かに信じられなかった。


「でも、理恵はお父さんが軍の人間で年格好が適切だから選ばれたって……」


「それは半分正解、半分不正解よ。私のお父さんは最近まで第四セクターの主任研究員だったの。その後釜を継いで私が就いたのと同時に時雨達や神の存在が耳に飛び込んでね」


 早い段階で立候補した理恵はそのまま時雨達の通う高校に入学。

 その行動力には驚かされるものであるが、時雨達の監視に時間を割いては主任研究員としての立場が危ぶまれるのではないか。


「これも立派な研究よ。人間の魂って二十一gあるって聞いたことないかな? マサチューセッツ州の医師ダンカン・マクドゥーガルが研究発表したもので、死期が近い被験者で死の直前、瞬間、直後の経過観察をした記録があるの」


 理恵は饒舌になって時雨達の監視は有意義なものだと主張する。

 彼女が専門とする研究は人の意識、魂についてらしい。

 死後、人の意識はどうなるのか。

 宗教的な観点で輪廻転生を繰り返すのか、それとも意識は消えて虚無の彼方へ消えるのか。

 その答えを導き出せる存在が時雨達のような異世界転生者。

 理恵のような研究者の立場なら、実際目にして確かめたい気持ちに駆られるのも分からなくはない。

 かくして引退した父親の研究を引き継いで、研究者として時雨達の前に現れた。


「カフラート博士には無理にお願いして面会する機会を作ってもらったの。貴重な証言をしてくれて時雨達には感謝しているわ」


「感謝されるような事はあまりしてないけど、理恵の研究の手助けになったのなら嬉しいよ」


 理恵が満足しているのなら、それでいいかと時雨はあまり追及する事もなく今の状況を素直に受け入れる。


「それと、この件は皆に内緒でお願い。主任研究員って肩書きはあまり世間に知られたくないのよ」


「うん、分かったよ」


 理恵の心情は理解できるし、目立つような真似はしたくない様子だ。

 学校の成績も中の上を維持しているのもその一環であるだろうし、本来は学年トップも狙えた。

 キャスティルが理恵を呼び出したのは時雨達の監視を自然な形で遂行するための配慮であり、時雨達の勉強を彼女に任せても大丈夫だろうと見抜いていたものだ。

 アメリカの主任研究員ともなると、さっきの喫茶店の女神様の動きを察知できてもおかしくはないのかと時雨は改めてカフラートや理恵に感服する。


「本当は魂の構造について女神様から直接聞きたいのですがねぇ」


「悪いが、私の口からは何も言えんよ。それはミュースでも同じだ」


 女神であるキャスティルなら、理恵の知りたい答えを全て持っているのだろう。

 敢えて口にしないのは女神達の定めるルールによるものかもしれない。

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