第378話 プール③
屋根のある涼しい日陰のところで休んでいる時雨は自販機で買った飲料水を片手にぐったりしていた。
「軽い熱中症ね。気分はどう?」
「まだ少し怠さがあるけど、だいぶ楽になったよ」
「それは良かったわ。急に沈んだりしたから足がつったのかと思ってビックリしたわ」
理恵がホッとした様子で時雨の隣に座る。
香や加奈も心配そうに駆け寄ってくれて、香に至っては今にも泣き出しそうな勢いだった。
すぐにキャスティルが時雨の容態を確認すると、適切な処置を施して今の場所に移した。
理恵が看病を引き受けて、キャスティルは香と加奈をプールへ連れ出している。
幸いにも快方に向かいつつあるので自分のためにプールを中断するのは申し訳ない気持ちもあって香と加奈にはプールを楽しんでもらいたかった。
「理恵も折角だから皆と遊んで来なよ。私はもう平気だからさ」
「私はプールより時雨とこうして二人っきりで話せる機会ができて嬉しいわ」
理恵が時雨に肩を並べて寄り添うと、彼女の大きな胸元が目に入って意識してしまう。
時雨は思わず視線を逸らしてしまい、その反応を理恵は面白がっている。
何か話題を振って誤魔化そうと、先程の女神が経営する喫茶店について口を開く。
「喫茶店で女神様を怒らせた加奈を助けてくれてよかったよ。理恵がいなかったら、今頃どうなっていたか」
創造神ミールに対して不敬罪と怒りを募らせた喫茶店の女神から加奈を救ってくれたのは理恵のおかげだ。
前世と比べて体力は並の女子高生である時雨だが、相手を見極める眼力だけは健在である。
だが、それを持ってしても喫茶店の女神の動きは捉えられなかった。
油断していたとはいえ、加奈もダークエルフ姿の時は俊敏で危機察知能力が高い筈なのに全く反応できなかったぐらいだ。
「あれは……そう! 火事場の馬鹿力ってやつよ。気付いたら身体が勝手に動いて加奈を助けていたのよ」
意外にも、少々動揺気味で答える理恵。
彼女の事だから、自信満々な返答が返って来るかと思ったが――。
「まあ、そのおかげで助かったのは事実だからね。そういえば、喫茶店の女神様が言ってたけど、理恵の故郷はテキサスだったんだね。私も機会があったら行ってみたいな」
理恵の出身地をアメリカのテキサス州だと明言した喫茶店の女神。
彼女の事だから穴場の観光名所等を押さえていると思うので、是非とも案内してもらいたいぐらいだ。
「時雨には話しておいてもいいだろ。お前の本当の正体をさ」
二人の間に割って入ったのは先程香と加奈を連れ出したキャスティルだ。
「なっ、何を言ってるんですか。私はお父さんの仕事で……」
「喫茶店にいたあの女神は武闘派で有名なんだよ。間違っても偶然で助けられるような相手じゃない」
何の話だかさっぱり分からないと否定する理恵は苦笑いを浮かべる。
喫茶店の女神の実情を把握しているキャスティルが断言すると、やがて参った表情に変化する。
「理恵?」
心配そうに時雨が理恵に呼び掛けると、理恵は天井を見上げて深呼吸をする。
そして吹っ切れたように口を開く。
「ご明察の通りですよ。あれは偶然じゃないですし、貴女を含めた沸点の低い女神様はどうにかならないんですかね?」
「私以外は気性が荒い連中ばかりだからな。それぐらいでないと、女神の仕事は務まらん」
「いや、貴女も大概ですよ。全く……」
理恵は呆れた口調でキャスティルに抗議すると、それが無駄な事も承知している。
聞く耳を持たないキャスティルから時雨に向き直った理恵は柔和な表情で時雨の両手を掴む。
「私はアメリカ合衆国第四セクター主任研究員。時雨達の監視に立候補した者よ」




