第371話 スカート
「どうも、こんちはっす」
「さっさと上がれ」
今度は玄関先から聞き覚えのある軽い挨拶がすると、キャスティルは面倒臭そうに招き入れる。
客人を時雨と香がいる部屋に通されると、その正体は理恵であった。
「よっ、二人共相変わらず元気そうだね」
「理恵も呼ばれてたんだ」
理恵はラフな私服で登場すると、適当な椅子に座って一息入れる。
てっきり、時雨以外で呼ばれていたのは香と加奈だけかと思ったので、理恵にも声を掛けていたのは意外だった。
「おやおや、私はお邪魔だったかな?」
「別に……そんな事はないよ」
時雨の肩を突きながらニヤける理恵は時雨の反応を楽しんでいる。
こう言うところは加奈と似ているんだよなと時雨は首を横に振って否定する。
全く何を期待しているんだかと思っていた矢先に香は理恵の私服について色々訊ね始めた。
「そのスカートいいなぁ。理恵、どこで買ったの?」
「知り合いに生地を取り扱っている輸入メーカーがいてね。そこから生地を少し分けて貰って作ってみたのよ」
「えっ! これって理恵が作ったの」
香が理恵の独特な柄のスカートに目が向くと、どうやら理恵が創作したものらしい。
(器用だなぁ……)
時雨も感心しながら理恵のスカートを眺めると、その完成度はプロ顔負けの出来栄えだ。
「僕も理恵みたいなスカートが欲しいなぁ」
「生地が手に入ったら、採寸して作ってあげてもいいよ」
「本当! それなら、この前のアルバイト代で生地を買っちゃおうかな。時雨ちゃんも作ってもらおうよ」
香は嬉しそうに時雨を誘っているが、正直スカートは学校の制服で十分だと時雨は思っている。
「私はいいよ。それに二人分も作るとなると理恵の負担が大きいからね」
やんわりとそれらしい理由を添えて断る時雨。
時雨の私服にスカートはなく、ジーンズやホットパンツが占めている。
強風に見舞われた日はとくに足元がスース―し、元々前世が男だった事も加味するので制服以外は基本的にスカートを穿かないでいる。
「私は別に構わないわよ。それに時雨のスカート姿も新鮮で見て見たい」
「学校でいつも見てるじゃん」
「私服姿だから価値があるのよ。どうせ時雨は恥ずかしくて足元がスース―するから穿きたくないってだけでしょ?」
理恵から的確に図星を突かれると、ぐうの音も出ない。
真っ直ぐな性格の持ち主である時雨は分かり易く顔に出てしまう。
「私は別に女子力を上げるとかそんなのはいいから、香ちゃんの分だけでいいよ」
「えっー、時雨ちゃんも一緒に女子力上げようよ」
香にせがまれて腕を引っ張られると、時雨は困惑してしまう。
「時雨は元々可愛いから、少しメイクと服装を変えたら化けるよ。そうだな……さっきそこですれ違ったゴスロリ服の女性も悪くないかも」
理恵は時雨をじっと見据えて想像を膨らませる。
ゴスロリ服の女性はキャスティルと言い争っていた人物だが、あれと似たような物を着るのは抵抗感が半端ない。
「ロリータ系か。小柄な時雨ちゃんにはピッタリかもね」
香も一人で頷きながら、本人を無視して満足そうに答えを導き出す。
そうしている内に部屋の扉が開くと、加奈とキャスティルが揃って入って来た。
「時雨……あんたロリコンだったの?」
部屋の外から香のロリータ系と言う単語が耳に入り、とんでもない方向に勘違いする加奈。
若干、引いている加奈に時雨は釈明する気も失せてしまった。




