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第362話 立候補

 約束の時間になり、時雨と香は控え室の扉を潜る。


「何か慌しい雰囲気だね」


 室内には役者達が心配そうにして担架で運ばれて行く人物に声掛けをしている。

 よく見ると、担架で運ばれているのはイカ男爵役の人のようで、お腹を押さえながら苦しそうにしている。

 時雨達に気付いた進行役の女性が参った様子で事情を説明してくれた。


「実はイカ男爵役の彼が今朝食べた鯖にあたってしまったらしいのよ」


「えっ、容態は大丈夫なんですか?」


「応急処置は救急隊員の人にやってもらって、私は彼の付き添いでこれから病院に付き添う事になってね。代役でイカ男爵役ができる役者もいないし、申し訳ないんだけど、午後の部は中止になりそうなの」


 担架が救急車まで運ばれると、進行役の女性は時雨達に一言謝ってそのまま付き添いで救急車へ乗り込んで行く。

 どうやら、午前中からお腹の調子は悪かったようで市販の胃薬を服用して平常を保っていたらしい。

 イカ男爵を演じられる役者が抜けてしまって、ステージは成り立たない。

 残念ではあるが、そういう事情ならば諦めるしかない。

 時雨と香も控え室を後して廊下に出ると、控え室から救急隊員の担架で運ばれるところを目撃したミュースが心配になって駆けつけてくれた。


「何かあったのですか?」


「実はですね……」


 時雨は事情を簡単に説明すると、とりあえず二人が無事である事を安堵する。

 ミュースの力で治せないかと思ったが、目立つような真似は禁じられていると以前に話していたのを思い出した。


「なるほど、それで役に穴が空いて中止ですか」


「ええ、そういう事ですので予定通りこのまま車で帰りましょう」


 ミュースが納得すると、時雨が香の手を引きながら皆と合流しようとする。

 香は中止になって少々不満気ではあったが、またどこかで機会はあるよと時雨が宥める。

 誰もが中止の流れは必然的だと思った時、ミュースから一つの提案がなされる。


「私がその配役を務めましょう」


「えっ、ミュースさんがですか?」


 時雨はミュースに振り返って思わず聞き返してしまった。

 まさか、女神である彼女がイカ男爵役に買って出るとは思ってもいなかったからだ。


「しかし、台詞も多い役柄ですし悪役を演じるのは女神的にどうかと……」


「こう見えても、暗記は得意分野ですし新しい分野に挑戦するのも悪くないですよ」


 時雨がオブラートに否定的な意見を述べると、ミュースはやる気満々の様子である。

 たしかに挑戦する心意気は尊重したいところだが、悪役で癖のある役柄を女神であるミュースが演じるところを想像するとカオスな雰囲気が漂う。


「責任者の方と交渉して来ますので、ちょっと待ってて下さい」


 早速、ミュースは行動に打って出ると、時雨の制止を振り切って控え室の扉を開けて交渉を始めた。

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