第36話 親友だから
「その通りだよ」
時雨は観念したように白状すると、二人の関係性を語り尽くした。
この科学が発展した世界では前世や転生のようなオカルト話は宗教色が強くて、真面目に信じる者は限られてくるだろう。
(どうせ、信じてはくれないだろう)
加奈の性格は時雨も把握しているので、前世や転生した物的証拠は何もない。
仮に加奈が二人のやり取りを撮った内容をネットに拡散させたとしても、第三者の視点で考えれば、女子高生二人が騎士とお姫様の役柄を演じているだけにしか見えない。
学校の生徒達からは一時的な話題に取り上げられるかもしれないが、時が経てば生徒達の記憶から忘れられていくだろう。
加奈も暇を持て余すために興味を示しただけで、他の生徒達と同様だと時雨は思う。
耳を澄ましていた加奈は時雨の思考を読んでいるのだろうか、的確に突っ込みを入れる。
「はいはい、時雨の考えている事は大体読めたよ。こんな滑稽な話を広めたとしても、中二病を発症した女子高生の戯言だと思っているでしょ?」
大体当たっているので、時雨は再び黙って頷いて答えた。
「こんな面白い話を誰かと共有するのは勿体ないわ。私は時雨って言う親友を中学生から見て来たから、嘘を付いていないのは明白よ」
「……私の言葉だけで信じてくれるの?」
「当たり前じゃん。親友が本音を語っているのに、おかしな事を言うね」
加奈は微笑むと、スマホで撮った内容を目の前で消去してみせる。
「これはもう必要ないわ。時雨から真実を聞けたからね」
親友だから分かり合える事がある。
時雨は一方的に加奈を誤解していた事を恥ずかしく思う。
「ごめん……私はその内容を拡散して笑い話にするつもりだと思い込んでいた」
「ひっどーい。私はそんなつまらない事しないわよ。それなら、二人っきりの時は時雨の事をロイドって呼ぼうかなぁ」
加奈は大袈裟にショックを受けた素振りをすると、意地悪そうな笑みを浮かべて時雨の反応を楽しむ。
「もう、それは勘弁してよ」
「ははっ、照れなくてもいいのよ。ロイド」
困惑する時雨は素性を知る者が一人増えたと同時に心配事も増えて、この先大丈夫だろうかと溜息をついた。




