第359話 意外な一面
午後のステージは二時間後。
時雨達はとりあえず約束の時間に間に合わせて皆と合流し、ステージの件について話した。
「へぇ、凄いじゃない。折角の機会だから頑張りなさいよ」
柚子は率先して賛成に回ってくれた。
前世で我が子だった香の晴れ舞台を見られるのだからと嬉しそうにしている。
「すみません、勝手に話を進めてしまって……」
「私は全然構いませんよ。皆さんが楽しんでもらえたら、それでいいんですから」
皆のために車を出しているミュースに時雨は一言謝ると、彼女は笑顔で承諾しくれた。
本来なら、この後いるイルカのショーを見た後に軽く昼食を取って帰路につく予定であった。
柚子は気にしないと思うが、ステージの件で帰宅する予定が遅くなり、道路が混雑したりしたら運転手を買って出てくれたミュースに申し訳がなかった。
「それに特撮ヒーローって少し興味があったんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
それは意外だなと時雨は驚いて聞き返してしまった。
ミールのような好奇心旺盛な女神ならともかく、修道服に身を包む彼女は一番女神らしい雰囲気の持ち主だ。
子供向けの特撮ヒーローに興味を示すような感じには見えなかった。
時雨達のために気を遣っているのかもしれないと思ったりしたが、どうやら違うようだ。
「悪のために日夜戦う正義のヒーロー。かつて神に仕えた身である私には何か通ずるものを感じるんですよ」
女神に登用される前は聖女として人々に奉仕を尽くしたミュースであるが、たしかに正義を貫く立場と言う点では変わらないのかもしれない。
「私もステージ上に立ちたかったですが、地上で女神が目立つような真似は控えるように言われていますからね」
ミュースは肩を落として残念そうにすると、女神で定められている規則によって参加はできないようだ。
時雨はふとイカ男爵に人質にされるミュースを想像すると、人質の見本市と呼べるぐらいの出来上がりになりそうだなと思えた。
(それはそれで少し見て見たかったな……)
時雨も心の中で残念そうにすると、ミュースが天井を見上げながらポツリと呟く。
「ミール様やキャスティルがステージ上に立ったら、舞台は台無しに終わりそうな勢いですから、この場にお二人がいなくてある意味助かりましたよ」
たしかにその通りかもしれない。
ミールは人質として緊張感がなさそうだし、舞台進行は困難を極めそうだ。
キャスティルに至っては逆に怪人側であるイカ男爵が無事にステージから下りられるか心配になってしまう。
「まあ……あのお二人が人質になるような場面は想像できませんね」
時雨は苦笑いを浮かべると、ミュースの苦労が垣間見えた。




